54、今更
真夏を過ぎ、会社員、学生達の夏休みが終わりを迎える。ここから、学校では文化祭などが行われることだろう。二学期に期待を寄せ、登校する生徒達がホテルの前を通り過ぎていく。
明るい日差しを浴び、ホテルのロビーは今日も賑やかである。
「お電話ありがとうございます。ホテル・グランド・リリス、ブライダルサロンでございます」
最近、結婚式の相談、打ち合わせの電話がブライダルサロンにかかってきている。冬になる前に結婚式を開きたいのか知らないが、それでも多すぎだ。そのため、お断りすることが最近は多い。ホテリエに負担をかけないよう、もっと優しく、仕事が少なくなったホテルだ。大変な結婚式の準備に、多くのホテリエをあてるのは避けたい。
「結婚式の相談が最近多いわ〜」
「確かにそうですね。ブライダルの方が今、一番大変なんじゃないですか?」
「そうよそうよ!何を言っても承諾してくれないカップルとか、日付を間違えて来ないカップルとか、子連れのカップルとか!見積もり中に喧嘩しだすところもあるのよ!?」
ちょっと結婚式場の掃除にやってきた水瀬は、ホテル所属のブライダルプランナーの紅露静華に遭遇。掃除をしながら愚痴を聞かされているところだ。
ブライダルプランナーとは、新郎新婦との打ち合わせや、決算、結婚式のスタイルやプラン、衣装や美容、カメラマンの手配、招待状や席表の作成の手伝いなどをするプロのことである。さらに、結婚式当日のサポートもしなければならないという常にハードな仕事だ。
「あ、でもね、数カ月後に結婚式をここであげてくれるカップルがいるんだけど」
「どんなお二人なんですか?」
「それがね、とってもいいカップルなのよ〜。聞いてみたら喧嘩はしたことがないそうよ」
「それ、彼女に尻に敷かれているだけじゃないんですか?」
「そんなことはないわよ。何組ものカップルを見てきた私よ?あの二人は本当に仲がいいんだわ!」
「そうなんですか」
結婚式といえば、二ヶ月くらい前にもあったような気がする。いや、気がするではない。本当にあったのだ。結婚式というわけではなかったが、結婚披露宴という形で。その時に起きた殺人未遂の事件。あれ以降、水瀬はちょっと結婚式が怖いし、元彼元彼女という存在が怖い。
「そうだわ、そのカップルの時、あなたに手伝ってもらおうかしら」
「・・・なんでですか・・・」
「なんだか、あなたがいると安心するわ」
「・・・そうですか」
本当は結婚式の手伝いなんてお断りしたいところだが、紅露は大先輩だ。水瀬には断ることができなかった。
「あとはそうね〜、白井ちゃんと山田君にも手伝ってもらおうかしら」
「だからなんでですか・・・」
「だって、あなたと白井ちゃんはセットでしょ?」
「・・・はい?」
「あと、山田君は前のアイドルの情報漏洩の事件で大活躍したって聞いたからいい子だと思って!」
「・・・まぁ、山田さんはしっかりされてますが・・・」
さらっと聞き捨てならないことを言われたが、当然の如くかわされ、紅露は水瀬に手を振ってからどこかへ歩いて行ってしまった。
水瀬は、白井とセットだと思われていることに関して、よくわからなかった。
確かに、最近よく一緒にいるが、それは仕事がそうしているだけであり、水瀬と白井がセットというわけでは断固としてない。
でも、周りにはそう思われている。自分ではそうではにと思っていても、周りから見たらそうじゃないことだって多々ある。
それに、白井と話すのは楽しいし、一緒に仕事をするのも楽しい。ずっと一緒にいて、飽きることもない。元気でお転婆で、かわいい・・・
(可愛い・・・!?)
自然に考えていた。水瀬の頭の中の白井は可愛い。これは自然の摂理なのか、それとも水瀬の異常なのか。今まで、女子に可愛いという感情を抱いたことはない。でも、よくよく考えてみると、ちょっと前に白井に「可愛い」と言ったような気がしてきた。それを、白井は「恥ずかしい」と言っていた。もしかして、「可愛い」という言葉はカップルが使うような言葉なのだろうか。気にしたくなくても気にしてしまう。一体、これはなんなのだろうか。
「水瀬さ——」
「ぅわあー!」
「わぁー!?」
突如、誰かに名前を呼ばれて、驚いた水瀬は渾身の大声を出したっぽい。その声に驚いた、水瀬を呼んだ主も高い大声を出した。
パッと入り口の方を見ると、驚いて、ドアに隠れている白井がいた。
「あ、すみません・・・驚かせてしまい・・・」
「い、いえ・・・突然、すみません・・・」
二人ともドギマギしている。それもそうだ。二人ともびっくりしたのだから。それに、水瀬は今の今まで、白井のことを考えていたのである。しかも、ちょっと恥ずかしい内容を。
「あの、何か私に用でも・・・?」
「あ、は、はい!今度、結婚式を開かれる方が・・・」
「紅露さん担当の・・・?」
「はい、そうです!あの、式後の宴会でのワインについて・・・」
「あ、あぁ・・・なるほど・・・」
すぐに掃除を終えて、水瀬は白井に連れて行かれた。




