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Wine・Red  作者: 雪白鴉
四章
52/70

50、ゆびきりげんまん

 今回は恋愛っぽい話です。

「そういえば水瀬先輩、今日、花火大会ですけど行きますか?」

「仕事が終われば、の話ですね」

「そうですね〜」


 夕方、エレベーターに乗った水瀬と西野は今日ある花火大会の話をしていた。

 夏にある、一大イベントと言っても過言ではないほどの祭りである。花火を見ようと朝から場所取りをするほどであるから、それほど人気があり、盛大なイベントなのだ。


「西野さんは行かれるんですか?」

「流石に無理ですって。場所取りなんかしてませんし」

「そうですよね」


 西野は彼女とぶらぶら花火の上がる川沿いを歩きながらデートをするらしいが、水瀬にはそんな甘い夏の気分というものはなかった。


「一度は誰かと見るのもいいんですが・・・」

「誰かって、あの宮河さんという警察の方は?」

「宮河は、家族がいますので」

「そうなんですね・・・」


 そう淡々と話す水瀬を見て、西野は何だか申し訳ない気分になった。

 彼女どころか家族もいない水瀬は毎年毎年、ボッチな夏に、ボッチなクリスマスである。ただ、水瀬には別に刺さるものでもないし、望みすぎては危険という信号があった。イベントの日に誰かといたことなんてないので、誰かといるということに関してあまり実感が湧かないのである。


(来年は宮河の家族に混ぜてもらおうかな・・・)


 なんて思っている間に、とうとう、アイドルグループが出る企画の撮影の最後の時間となった。

 最後はお世話になった人からの言葉や感想、そして感謝をつてる場が設けられている。この時間だけ、ホテリエスタッフの何人かがロビーに集まった。


『五日間、本当にありがとうございました!』


 息ぴったりの四人の挨拶にホテリエ、客一同が拍手を起こした。一人一人の感想と水瀬や白井、支配人の言葉もよくできており、プロデューサーの櫻田は涙ぐみながら拍手をしていた。



 日も暮れ、もうすぐ花火大会が始まるという時間、アイドル四人とそのスタッフたち全員が水瀬に呼び出しを喰らった。そして、ついでに、白井もやってきた。また、バーにでも行くのかと思っていたが、バーのある階を通り過ぎ、行き着いたのは屋上だった。


 ヘリポートのマークが屋上に灯りに照らされ、よく見える。


「水瀬さん、どうして屋上なんですか?」


 夏は夜でも暑い、熱帯夜だ。しかし、屋上ということもあり、ほんの少し涼しい。


「岳山さん、梅近さん、土江さん、永谷さん、スタッフの皆さん、五日間お疲れ様でした」


 シルクのような黒いサラサラの髪がそよ風に揺れる。


「ここでの思い出作りに、私からの最後のお土産です」


 なんだろうと黒い空を背後にした水瀬をみる。しかし、その視線は、瞬時に天高く広がる空を射抜くことになる。


 予告の時間通りにドンっという大きな音で花火が打ち上がった。立っている場所が揺れるほどの大きな音。全員、開いた口と目が閉じられない。


「白井さん」


 花火を見る白井に水瀬が寄ってきた。


「十分ですか?これで機嫌が治らないのであれば私はこれ以上どうすることもできません」

「・・・!」


 水瀬は白井が不貞腐れてたのをちゃんとわかっていた。その原因が昨日のことであるということも。仲間外れにされるのが嫌いな白井を慰めるためのものとして、テレビ番組の企画に携わった人たちへの敬意を込めて。花火大会が今日あるという事をあらかじめ知っており、それを実行した。水瀬なりの土産である。


「私が、機嫌が悪かったこと、わかってらっしゃったんですか?」

「ええ、もちろんです」


 自分が不貞腐れていたのを知られていたことに対して当然、白井は恥ずかしくなった。


(器の小さい女だって思われてたらどうしよう・・・!!)


 白井は申し訳ない気分と嫌われたらどうしよう、と悩みに悩んだ結果、白井はもう花火に集中することにした。


 黒い夜空を明るく彩る大きな花火。心臓に響くほど。

 花火の上がる場所はホテルからそう遠いものではなく、屋上は最高の席であった。地表からしか見たことのなかった者は大はしゃぎ。その中に白井もいた。


「水瀬さん!見ました!?さっきの花火、ものすごく綺麗でしたね!!」


 水瀬の方を満面の笑みで振り向く白井。花火の幻想的な鮮やかな光が白井の美しさを引き立てる。子供のようにはしゃぐ白井の横顔。花火の振動で揺れるより、心臓が跳ねた気がした。ぎゅっと赤いネクタイを握りしめた水瀬は自分の思考がよくわからなくなっていた。


「・・・誰かと、一緒にいるというのは、こんなにも心地が良いものなんですね・・・」


 ボソッと水瀬がこぼした言葉に白井が反応した。

 儚げにしんみりと空を眺める水瀬は白井の目には月光に咲く、花のように映った。


「誰かと花火、見たことないんですか?」

「はい、お恥ずかしながら」

「恥ずかしいことなんてありませんよ。あ、そうだ!」


 何かを思いついたのか、白井が水瀬の前にくるっと立った。


「来年!一緒に観に行きましょう!!」

「・・・来年・・・?」

「はい!川沿いに屋台がずらりと並んでいます。りんご飴とか、かき氷。それに、誰かと一緒に屋台を回るっていうのは本当に楽しいんですよ!!」

「・・・まぁ。そうかもしれませんね・・・」

「決まりですね!!」

「え」


 すると、白井が右手の小指を立てて、水瀬に言った。


「ゆびきりげんまん、約束です」

「・・・」

「一緒に行く約束です!こうしないと水瀬さん、約束破っちゃいそうですから」


 勝手に決められた約束を勝手にゆびきりげんまんされるというのは思いもしなかった。しかし、あまりにも白井が乙女で、可愛らしかった。朗らかな気持ちになった水瀬はふっと笑い、自分の小指で白井の小指を絡め取った。


「・・・そんなこと、しませんよ」


 白井のせいで、来年の水瀬の予定が一つ埋まった。


 この小説を書き始めて一年が経過しましたが、まだ、一ヶ月程度しか話が進んでいません。しかし、夏は恋ですから、長々と書きたくなりますよね!!

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