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Wine・Red  作者: 雪白鴉
四章
51/70

49、意味深

 本日、最後の撮影である。八月の半ば、地球温暖化が進む日本ではまだまだ暑さが続き、今がピーク時だろう。夏休みの旅行かなんなのか、蝶ネクタイをつけた坊ちゃんやオシャレに着飾ったお嬢さんたちがフロアを動き回っている。安全を見守りながら仕事を淡々とこなしているホテリエの中、一人だけ、不貞腐れながらフロントの前で掃除をしている白井がいた。


「白井ちゃん、どうしたの?今日、元気ないよ?」


 白井の先輩が話しかける。白井は小さくため息をついた。


「昨日、私、遅くまで仕事やってたんですけど」

「それで機嫌が悪いの?」

「そうじゃないんです。私は今、水瀬さんに怒ってるんです」

「水瀬くん?」

「はい」


 白井が怒っている原因は、昨日の夕方、水瀬が仕事が入っている白井をおいて、アイドルグループとバーに行ったことである。白井もバーに行ってみたかったというのに、水瀬は白井の仕事が入っている日にバーに行くことを提案していた、それに白井は怒っているのである。


「今日だったら、私、仕事早く終わるのに・・・。水瀬さんって結構薄情ですよね」

「そう?」

「そうですよ!」

「でも、水瀬くんって、視野が広そうだけど・・・」

「まぁ、そうなんですけど〜」


 何を話しても白井はずっと「むっ」としている。先輩は、困ったように笑った。


「じゃあ、今度、自分から誘ってみたら?」

「でも、私、バーとか行ったことなくて・・・」

「だったら聶園くんに聞いてみたら?水瀬くんの好きなカクテルとか教えてくれるかもね」

「た、確かに・・・!」


 先輩からアドバイスをもらって元気になった白井は、張り切って仕事を再開した。


 その頃、ホテルの中では止まらずカメラが回っていた。この滞在で培ったものを生かして、アイドルグループ四人は、最後の日の仕事を文句も言わずに、そして、エンターテイメントととして成り立つ番組を作り上げていた。


 水瀬は朝からずっと、四人と行動をしていた。廊下を歩けばゴミをとり、もめている客を発見すれば仲裁に入り、落とし物があればカウンターに届けるを

繰り返していた。


 休憩室に入った四人は携帯を開き、万歩計を見た。


「ヤベェ、ライブの時と同じくらい歩いてる・・・」

「俺も」


 ホテリエの仕事に慣れてきてはいるものの、数日、歩きっぱなしの足は本当に棒になったようだった。


「大丈夫ですか?」


 そこへ水瀬がお茶を持ってやってきた。足を痛そうにさすっているのを見て、歩き過ぎによる足の痛みだとすぐに感じ取れた。


「歩きすぎると股関節を痛めますのでストレッチをお勧めします」

「股関節、ですか?」

「はい。長時間、立っていたり歩いていると股関節に体重がかかり、痛みが出てきます。放っておくと股関節の動きが悪くなりますよ」

「そうなんですか・・・」


 お茶を置いた水瀬は、部屋を出て、自分の仕事へ向かった。


「西野さん」

「あ、先輩!」

「お手伝いに参りましたが、あと、どの部屋がまだですか?」

「はい、この部屋の隣と、ここから三部屋先の二部屋です」

「わかりました」


 十階の部屋のハウスキーピングをしていた西野の手伝いとして、時間の空いた水瀬がやってきた。

 客の入れ替えの激しい夏は、それだけでなく、布団のシーツや冷蔵庫など、冬とは比べ物にならないくらい、整頓が面倒なのである。


(忘れ物・・・)


 掃除中の部屋の中で水瀬は忘れ物を発見した。金色に光る腕時計だが、水瀬の目には結構な値段のつく代物に見えた。


(社長でもなかなか手が出せないブランドだ。この階はそんなVIPが泊まるようなところじゃないだろうに・・・)


 そんなことを考えながら水瀬は手帳にルーム番号と発見した日時を記録し、フロントへ持っていった。


「あら、水瀬くん、どうしたの?」

「お客様のお忘れ物がありまして」

「随分高そうね」

「そうですね」


 忘れ物とメモしたことを伝え、水瀬はまた仕事に戻った。


 その道中、西野とばったり会った。何だか急いでいるようだった。


「どうしたんですか、西野さん」

「掃除していたらお忘れ物が・・・」


 そう言って持っている忘れ物を水瀬に見せた。そして、水瀬の目に映ったのは驚くべき物だった。


「金の高級腕時計・・・」


 それは、先ほど水瀬がフロントに渡した腕時計と瓜二つだった。しかも、水瀬が掃除をしていたのは西野が掃除をしていた部屋の隣だった。偶然にも程がある。


 難しい顔をして考え込む水瀬を見て、西野が問いかけた。


「どうかしたんですか?」

「いえ、なんでもないですよ」


 不思議に頭を傾ける西野の横を通り過ぎ、客室へと向かった。


 徐ろに西野が掃除をしていた部屋と自分が掃除をしていた部屋を覗く。不審な点はないし、共通するものだってない。ましてや、正反対というものもない。


(考え過ぎだろうか・・・。別に絶対にあんな偶然が起きないわけでもないし・・)


 いったん、保留ということで、水瀬は二つの部屋を後にした。

 

 

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