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Wine・Red  作者: 雪白鴉
一章
5/66

5.ナイロンの友情

周囲のざわつきの中、水瀬だけ冷静に答えた。


「犯人がわかった・・・?」


宮河が水瀬に問いかける。


「とても単純でわかりやすいトリックで良かったです」

「いや、俺にはさっぱりわからんぞ」


くすっと苦笑いをする水瀬だが、捜査一課である宮河には全くわからない。

二人の話を聞いていた招待客の何人かが水瀬と宮河を見た。


「わ、わかったんですか!?」

「えぇ。おそらくですが」


新郎がぱっと顔を明るくさせた。


「宮河にもわかっていないようなので実際にやってみましょう」

「やってみる?」


水瀬は白井に、色付きの目立つ紐と磁石を持ってこさせた。


「まずはカーテンが落ちたトリックから」


水瀬は宮河にも協力してもらい、長い紐の片方を磁石をつけたカーテンに取り付け、反対をシャンデリアのフックを通り、一番後ろの灯が立つところの隙間に通した。


「これで完成です」

「え?」


色のついた目立つ紐は前のカーテンからシャンデリアを通って後ろへ繋がっている。


「白井さん、紐を引っ張ってみてください」

「は、はいっ!」


後ろにいた白井が隙間に通された紐を下に引っ張るとカチャッという音がして、カーテンが落ちた。


「えっ!?」


カーテンはもともと紐と繋がっており、紐を引っ張るとカーテンが落ちるように細工されていたのである。


「目立たないようナイロン線でも使って細工をしたのでしょう。ナイフを仕込んで」

「!!」


新婦がゾワッと身震いをする。


「それだけでどうして犯人がわかるんだ!?」

「それだけではないですよ」


新婦の父親が水瀬に大声で言った。


「こんなことが出来る人をしぼってみましょう」


仕込んだと見られるのは招待客がやって来た頃合い。アリバイのあるものには到底できない。そして、ナイフには指紋がなかった。とすると、手袋をしている人だと思われる。


しかし、手袋を外していたらどうだろう。指紋がついていないから手袋をつけている人は疑われる。そう犯人が思う可能性がある。


「指紋に関して証拠は出ませんので、座る位置から特定していきましょう」

「座る位置?」

「はい」


カーテンが落ちたのはウエディングケーキ、共同作業の頃だ。


「まず、なぜ犯人は暗闇ではなく、この時間帯に犯行をしたのでしょう」

「え・・・。なんかできない状況でもあった?」

「そうですね」


暗闇といえばムービータイムに絞られる。大抵、犯行がしやすいのは暗闇である。ただ、なぜ犯人はその時間を選ばなかったのだろう。

それは、線が見えなかったのである。


「使われていたのはナイロン線。勿論、光を当てない限りこの線は見えません。しかし、普通の線にしてしまえば通常時、はっきりと見えてしまう。そのため、やむなく明るい場所で犯行に及んだのでしょう」

「なるほど・・・」


それを考えると犯人は前から準備をしていた可能性がある。ナイロン線や磁石を用意するとなると時間が必要だ。


「そうなってくれば座る位置も考えなくてはならない」

「なるほどなぁ・・・」


今回の犯行は座る位置が重要になってくる。

新郎新婦の前であれば当然、立ち上がって線を引っ張りに行くことはできない。


「そこから犯人は線が通っている灯から一番近い席であることがわかりますよね」

「!!」

「あそこに一番席が近いのは・・・」


水瀬の言い文から新郎新婦たちはそこに座っていた人を思い出す。


「理恵・・・」

「・・・」


新郎新婦たちが思い出した人物は、新婦の親友、坂根理恵だった。


「り、理恵・・・本当?」


新婦が違うよねと訴える顔で坂根を見る。


「なに言ってるんですか!!私が親友の紗和を殺そうとするわけないじゃないですか!!」

「・・・」

「そうです!!理恵はそんなこと・・・!!」


みんなで坂根を庇っているが事実は事実だ。


「新郎様。はいかいいえで正直に答えてください。坂根様は、席決めの時、あの席を指定しましたか?」

「!!」


新郎がハッとして顔を上げた。


「・・・ち」

「私は、はいかいいえで正直に答えてくださいと言いましたよ」

「・・・!!」


あんなに穏やかで優しそうだった水瀬は、打って変わった表情をしていた。

カラーコンタクトの下の赤眼は見えないはずなのに冷たく沈んでいた。


「・・・は、はい・・・」

「ちょっ!?」


はいという答えに動揺し、坂根が声を発する。


「新郎様、お答えいただき、誠にありがとうございます」

「まってください!!た、確かに私はあの席を指定しました!!でもなんの思惑もなく・・・!!」


招待客たちを押し退けて、坂根が水瀬の方に寄ってきた。


「わ、わかってくれますよね・・・?」

「・・・」


そんな事をいう坂根は汗をかいていた。濡れ衣を被せられて焦っているのか、バレそうで焦っているのか、それは彼女の行動と事実が教えてくれる。


「申し訳ありません。わたくし、もともと税関志望でしたので嘘を見抜くのは得意なんですよ」

「っ!!」


税関、嘘。二つの単語を聞いた坂根は更に動揺し、足を一歩下げた。


「どうされたんですか?嘘でないなら動揺しないと思いますが?」

「こ、こいつ・・・!!」


まるで悪魔の表情だ。坂根は歯を食いしばらせた。


「全部全部、このホテリエの言うとおりよ!!」

「り、理恵・・・!?」


坂根は水瀬が言ったこと全てを認めた。

新婦はペタリと座り込んで泣き崩れた。親友だと思っていた人に裏切られたのだから。


「紗和さぁ、私と大冶が大学時代、付き合ってたこと知ってた?」

「え・・・!?」

「その顔、知らなかったみたいだね。ねぇ、大冶?」

「!!」


新郎、杉谷大冶の肩が跳ねた。


「こんな女と浮気する奴より、高身長でイケメンなこのホテリエさんのほうがよっぽどいいわ」

「この女・・面食いかよ」


「もういい」と言って、坂根は水瀬の横を通り、後ろの宮河の方へ向かって歩いていった。



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