35、協力関係
朝、いつものホテルは人数が少なかった。
たった二人という少人数でありながらも人の少いホテルでは二人退職というものは大きかった。
「先輩二人いないだけなのに淋しいですね」
「はい」
ムードメーカーで優しい先輩二人の退職によりホテリエたちの空気はほどほどに暗かった。
減った人数分の仕事は全員に回ってくる。前よりも厳しい仕事になっていた。
「白井ちゃ〜ん、今日このお客様の担当お願いできる?」
「了解でーす!!」
白井はやる気で仕事へ向かった。
この状態で仕事にやる気を感じているのはおそらく白井だけだろう。
「元気ですねぇ、先輩」
「だってやる気出さなきゃ仕事終わらないでしょ!」
そう言って二人ともいつも通りに仕事を始めようとしていた。
すると、フロントに電話がかかってきて、スタッフが電話にでた。
「はい、ホテル・グランド・リリスです」
いつもの決まり文句を言って話の内容を聞き取る用意をした。
客の名前、日時。
ボールペンの先を出し、メモ紙に書こうとした時だった。
「こちら株式会社〇〇の櫻田と申します」
「え」
スタッフがペンを落とした。
「突然お電話してしまい、申し訳ありません」
「い、いえ・・・」
ホテルに電話をしてきたのは大手株式会社のスタッフだった。スタッフが慌ててペンを取る。
話によれば、ある番組の舞台にしたいとのことだった。
あるアイドルグループが一週間、やったことのない仕事に挑戦してみるという企画で視聴者の投票によりホテリエが選ばれたという。
「わかりました。支配人を呼んで参ります。少々お待ち下さい」
フロントコート達はさすがに自分の一存で決められるわけがないので支配人を呼び、支配人に話の決着をつけてもらおうとした。
少し経ち、支配人が急いでやって来た。
「はい、ホテル・グランド・リリス支配人の鈴木と申します」
「お忙しい中、申し訳ありません!」
「いえいえ」
相手は新人スタッフなのかまだ電話でのお願いに慣れていないようだった。
芸能界からの信頼も厚い「リリス」では芸能人の宿泊はもちろん、映画撮影等の打ち上げなども行われることが多い。つまりはホテル・グランド・リリスはホテル業界のトップに君臨する。
「・・・承知しました。こちらのホテリエと話し合い、結果はなるべく早く連絡いたします。そちらの連絡番号をお願いできますか?」
「はい!ありがとうございます!!」
支配人は自分のメモ帳にしっかりとメモを施し、電話を切った。
「支配人。断らなかったっていうことは受ける可能性が大きいってことですか?」
倉橋が突っ込む。
「まぁな。こちらとしてはあちらに協力するのではなくあちらに協力してもらうっていう思惑が大きいな。ちょうど二人退職したばかりだし、今やホテリエの人数と年収が下がる一方だからな」
「確かにそうですね」
ホテルを宣伝するいい機会だと支配人は乗り気であった。
そして、この話を聞いたホテリエたちもホテルの宣伝に役立つのならと、一致を得たが、アイドルグループにつきっきりで指導をするホテリエを誰にするかという話で全員の口と空気が止まった。




