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Wine・Red  作者: 雪白鴉
三章
36/70

34、高は退き、低は上る

「さっくんと」

「もっちぃーで〜」

『さくもちカップル帰還しま~すぅ!!』

「お気をつけてお帰りくださいませ」


赤い夕焼けの中、メロンパンカップルは笑顔で帰還していった。


どっと疲れた水瀬と石川はくたばる余裕もなく最終の重要な仕事に向かおうとしていた。


「これを終わらせるまではお客様が帰ったとは言えませんからね」

「ですね!」


接客も大事な仕事ではあるが掃除というのは次の客の為の下準備。つまり、メロンパンカップルの最終の仕事であると同時に次の仕事の始まりをしているわけである。


「石川さんも次の仕事から掃除は一人ですねぇ」

「一人ですかぁ〜・・・」


基本掃除はホテリエ一人で行うものである。


「石川さん、洗面台、バス、お手洗いをお願いします」

「了解です」


洗面台に置かれている歯ブラシコップを全て交換し、鏡の曇りや水の跡、バスの水滴など何から何まで新品のようにしていく。


水瀬は部屋の床やベッドのシーツ替えなど。水瀬には手慣れたものである。

素早く且つ美しく、ホコリ一つあってはならないこの掃除は綺麗好きの水瀬の得意分野である。


「石川さん、こちらは終わりました」

「早くないですか!?」


水瀬の手っ取り早さに石川は圧倒されてばかりだった。自分も素早く美しく掃除ができるよう全力を尽くした。


「なにか忘れ物とか無いですか?」

「はい、無いです」

「お客様はよくお忘れ物されますからね。特に女性であれば手鏡や櫛、口紅などコンパクトで持ち歩きようのカバンに入れるような物をお忘れになられますから注意しないといけませんよ」

「わかりました!」


石川はホテリエになってから水瀬から色々と学ばせてもらっている。ホテリエ教育係の水瀬と仕事中の水瀬を真剣に近くで見て技を盗む。教える暇のない先輩たちにとって後輩が自ら察し、学んでくれることはさぞかし嬉しいことだろう。


そうやって人一倍熱心に学んでいる石川を水瀬は知っている。そういえば自分もこんな感じだったなぁと思いながら石川がわかりやすいよう仕事がてら教えながらいつもを過ごしている。


「熱心でなにより」


水瀬に褒められ石川はご満悦であった。


 掃除も終わり、掃除道具を片付けようとしていた時、支配人の部屋の前を通った。そこで聞き耳を立てた訳では無いが支配人と先輩ホテリエの二人の声が聞こえた。


声の主はずいぶん前からこのホテルでホテリエをやって来ただいぶ年配の先輩だった。


もう仕事を辞めてもいいくらいの年齢だ。


「水瀬、石川、聞き耳とはいい度胸だな」

「先輩っ・・・!」


いつの間にか聞き耳を立てていた二人は先輩二人が支配人部屋から出てきたことに気づいていなかった。


「聞いてたか?」

「・・・途中からですし、あまり聞こえませんでした」

「そうか」


先輩二人は先に言ってしまえと水瀬と石川に先ほどの話の内容を教えてくれた。


「俺たち退職しようと思って」

「そうですか」

「・・・止めてくれはしないのか?」

「いえ、もう良い年頃じゃないですか。止めるなんてしませんよ」

「そこは冗談でも止めてくれよ・・・」


水瀬の思った以上の塩対応に先輩二人は少しショックを受けたらしいがすぐに話の続きを始めた。


「お前の言う通りもう良い年頃だし、体力的にきつくなってきた」

「ホテリエってのは体力勝負みたいなところあるしな」

「えぇ」


歳を重ねるごとに体力はだんだんと低下していく。この二人の先輩の体力は限界に達していた。


「もうちょっと仕事したかったんだけどなぁ。ほら、ホテルって三百六十五日二十四時間営業だろ?さすがに無理があってな。支配人と相談して退職することにした」

「・・・残念です」


水瀬は残念がり、石川は余計不安が増してきた。


「宿泊しに来るから頑張れよ、若者共よ!!ハッハッハ」


そう言って先輩二人は去っていき、数日後、退職した。



これで三章は終わりです。

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