32、無責任はお手の物
「おはようございます」
「おはようございます、先輩!」
朝、ホテルへ出向くと石川が笑顔で出迎えてくれた。
「早朝からこんな事言うのもやなんですけど・・・」
「言わなくて大丈夫ですよ。どうせあのカップルでしょう?」
「せ、正解です・・・」
深くため息をついた水瀬はネクタイをギュッと締め、石川を連れてメロンパンカップルのもとへ行った。
「要件は?」
「ルームサービスの水がちょっと冷たすぎるからって・・・」
「・・・」
今にも倒れそうな要件である。
「夏なので冷たくしているのは仕方ないんですけどね・・・」
「人によるんでしょう」
水の冷たさは人によって合うかわからない。確かに飲食店で用意されている水は氷水といってもおかしくないほど冷たくされている。それに、文句を言っているようなものなのである。
要件を聞きなから水瀬はメロンパンカップルの部屋の前までやって来た。
「お客様、ホテリエの水瀬と申しますが」
「あ〜、やっと来たぁ」
彼女の方がドア開けてきた。
「水の件ですが────」
「あぁ~あれ?もういいわぁ」
「え」
「遅すぎてどうでも良くなったの」
ハチャメチャな言動に石川は驚きの表情を隠せていなかったが、そんな石川を隠すように細めの目で無表情を貫く水瀬が立っている。
「じゃあ、ご苦労さま」
そう言って、パタンとドアを閉められた。
「え、えぇ・・・」
なんと無責任な行動をとる彼女にめっぽう驚く石川に対し、水瀬は疲れ切った顔をしていた。
こういう面倒くさい対応はだいたい水瀬に押し付けられる。こういうことに水瀬より慣れた人材はいないと言える。
「なんだかんだ、疲れてきました」
「やっぱ先輩も疲れるんですね・・・」
次の仕事にうつった二人だが、メロンパンカップルの次から次への呼び出しに二人は今日一日、悩まされるのであった。
「つっかれたぁぁー」
「お疲れ〜」
疲れた二人のために白井が珈琲を出してくれた。
「明日で終わりですからね」
「まぁ、そうなんですけどね・・・」
明日でようやくメロンパンカップルの滞在が終わる。
しかし、客が帰るということは部屋の掃除を意味する。その掃除は新品に仕上げなければならない。
カリテルではホテルに欠かせないハウスキーピングという役割が存在しない。掃除、案内、その全てを水瀬達、ロビーアテンダントが行う。
「掃除って地味に大変ですもんねぇ」
「えぇ」
掃除を何度も経験している水瀬や白井にはわかる。
地味に見える掃除というのは客をとる場所にとっては重要すぎるものである。その掃除がおろそかになってしまえばそこの評価は方下がりだろう。
「明日は気合入れて掃除をしましょうか」




