31、家族の愛
「すっぴー〜〜」
遊び疲れたのか、朝陽は水瀬の膝の上でよだれを垂らしながら気持ちよさそうに深く眠っていた。
毎度毎度のことながら水瀬と遊び飽きない朝陽に水瀬も飽きることはなかった。
毎回毎回、変な遊びにつきあわされて、はじめの頃は冷静着々と指示通りに遊んでいたが、長らく遊んでくると、行動が読めてきて最近ではちょっと楽しみながら遊びに付き合えるようになってきた。
「朝陽ったら寝ちゃったなぁ」
「いつものことだよ」
宮河が朝陽の寝顔を覗き込む。幸せそうで何よりだがちょっと癪である。
「俺、嫌われてんのかな・・・」
「さぁね」
あまり落ち込むところを見せない宮河だが、朝陽のことにかかれば子離れしてないのがバレバレだ。
「お前が父親にいつまでもたたないから俺は悩みを打ち明けられるやつが少ないんだよ!」
「だからそうやって結婚を急かさないでよ」
「だってさぁ〜」
たまにこうやって水瀬に結婚を急かすような言動をする。なんとなくそう言われると水瀬は自分が惨めでしかみられなくなる。
「でも、やっぱり結婚はしたほうがいいんじゃない?一人って今はいいかもしれないけど家族が増えた時、一人の時がものすごくさみしく思えちゃうから」
「そういうものですかねぇ・・・」
宮河夫婦揃ってこんな事言うので朝陽の頭を優しく撫でながらため息をついた。
「私にそういう方はいませんし、仲の良い女性もいません」
「夏希ちゃんは?」
「彼女は同僚です」
まず、友人が宮河しかいない水瀬に仲の良い女性がいるわけもなく、過去、彼女がいたこともない。その理由として優れすぎた容姿を持っているというものもあるが、水瀬自身が人となかなか関わろうとしなかったというものもある。
つまり、水瀬の自業自得なのである。
「合コンとか行ったら?」
「論外」
「え〜、いい出逢いあるんじゃない?」
「だから合コンなんて私の性には合わないんだって」
「いやいや、そんなことはないだろ。俺のつてで開いてやろうか?」
「結構です」
別に全く彼女や結婚に興味がないわけではないが、その気にならないだけである。特に合コンなんて論外である。
「私は仕事があればそれで良い。ささやかで変わらない幸せで十分」
「まじで無欲だなぁ〜」
今や家族と呼べる人がいない水瀬には家族の幸せというものを感じたことはないに等しい。もしも家族、家族同然の人ができたことで今のこの普通の生活がもしかして崩れてしまうかもしれないという不安を抱いていた。
「私はこうやって宮河の家族とふれあっているだけで、もう十分だよ」
人には人の生き方というものがある。それが、水瀬はちょっと平均よりずれているだけなのだ。
家族の愛を必要としたことが水瀬には一度もなかった。
「こう考えると、あのメロンパンカップルのお客様はずいぶんと愛で溢れてらっしゃる」
「メロンパンカップル?」
「なにそれ、美味しいの?」
「あ。朝陽が起きた」
「えっとね、メロンパンカップルっていうのは、ホテルのお客様のあだ名なんだよ」
「美味しそうな名前だね〜」
喧嘩こそしていたものの、あの異常すぎるいちゃつきぶりは誰が真似できよう。まず水瀬や宮河には到底真似はできない。
「自称さくもちカップルだそうで」
「まじでメロンパンだな・・・」
「でしょ」
こんなことを話したので明日からの仕事が余計面倒になってきた。
明日明後日の辛抱だというのにあのメロンパンカップルといると二日が二倍に感じてくる。水瀬は小さくため息をついた。
「宮河、朝陽ちゃん、蕾にさん、そろそろ御暇させて頂きます」
「ええ、ありがとう、暁くん。また来てくれると嬉しいわぁ」
「はい。また来ます」
朝陽に泣きつかれながらも水瀬は玄関に行き、靴を履いた。
「あ、そうそう。はい、今日の手土産」
「あ、どうも。毎度毎度、麻婆豆腐をありがとうございます」
いつものことだが、蕾は毎回何故か麻婆豆腐を用意して待ってくれている。夕飯になるので、ものすごくありがたいのだが。
「では」
水瀬は宮河の車に乗ってマンションまで帰っていった。




