3.崩れ落ちる
雨が降っていて暗い会場の天井には、輝く大きなシャンデリアがぶら下がっている。その下ではなんとも平和な結婚式が開催されている。水瀬、白井、西野は、会場の隅で式を見守っていた。
「何度か結婚式を見てきましたが、やっぱりいいですね」
白井が西野と水瀬に話した。白井は今まで、何度も結婚式に派遣されているベテランだ。水瀬はというと、これで3回目くらい。他のパーティーに多く派遣されるため、結婚式の派遣は少ないのだ。
「なにより、新郎新婦のお二人がとても嬉しそうで良かったです」
「そうですね」
教会で行わず、披露宴だけのこじんまりとした結婚式ではあるが、幸せさは大きそうだ。
「もうそろそろムービータイムですね。俺、行ってきます」
西野がムービータイムのため、準備に取り掛かった。
「私達はウェディングケーキの準備をしてきましょう」
「わかりました」
水瀬と白井は式場をでて、近くの厨房へ向かった。
少し経ち、ムービータイムやお祝いの言葉も終わり、続いて、ウェデングケーキを切るという初めての共同作業がやって来た。ウェデングケーキをカートに乗っけて、白井が運んできた。それを水瀬と机に起き、ナイフとフォーク、お皿を置いた。
その時、水瀬はふと気がついた。
「あのテーブル・・・位置が・・・」
水瀬が見ていたテーブルは一番奥のテーブルだった。2番目にあるテーブルと位置が被っている。本来なら1番前のテーブルとほとんど同じ位置にあるのに。
「見落としたんでしょうか・・・」
「本当ですね。私も気が付きませんでした」
不思議に思いながらも、水瀬は白井と式場の隅にまた移動した。
新郎新婦が大きな白いケーキを切る。お皿に切り分けたケーキを置くと、新婦がフォークで小さく切り、新郎の口へ運んだ。
「水瀬さん」
隣で白井が水瀬に話かけた。水瀬が返事をすると、白井がシャンデリアを指さして言った。
「何か光っているものが見えませんか?」
「・・・そうですね。何でしょうか・・・」
ところどころ、シャンデリアの明かりによって光っている。それは、後ろから前のカーテンまで繋がっていた。
「紐・・?」
すると、新婦の後ろにあるカーテンの上が微かに動いた。その時、同時に光も若干だが動いた気がした。
「そういえばあそこのカーテン、なんか変───」
ハッとした水瀬は走り出した。
カチャッという小さな音とともに、真っ白のカーテンが新婦めがけて落ちてきた。それと一緒に新婦の上に銀色のナイフが落ちてきた。
呆然とする新郎新婦の横にあるテーブルに乗った水瀬は、新婦にあたるギリギリのところでナイフをキャッチし、カーテンを新郎新婦に当たらぬようにはけ、着地した。
状況を理解した新婦が真っ青な顔でへたり込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
白井と西野が即座に駆けつけた。会場は壮絶としている。
そんな中、新郎新婦の両親と親友たちが駆け寄ってきた。
「紗和、大丈夫!?」
「う、うん、大丈夫だよ・・・」
「全然大丈夫じゃないじゃない!!」
新婦の親友が新婦の背中をさすって落ち着かせようとしていた。
「水瀬さん、事の状況が理解できないんですが・・・」
掴んだナイフをテーブルに置いた水瀬に白井が言った。カラーコンタクトの目を細めた水瀬はシャンデリアを見上げた。
「白井さん、警察を呼んでください」
基本的に火曜日の朝、更新します。