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Wine・Red  作者: 雪白鴉
三章
24/70

22、真実の髪飾り

遅くなりました!!

 パチン、と髪飾りの留め具が鳴る。白井のハーフアップの結び目にはペチュニアとベゴニアの髪飾りが確かについていた。


「っ!」


白井は後ろを振り向き水瀬を見る。


「やっぱり白井さんによく似合ってて、可愛らしいです。」

「・・・っ。」


頬が熱くなって白井がそっぽを向く。水瀬はキョトンとしている。


「どうしました?」

「いっ、いえっ。なんでも、ないです・・・。」


無表情というべきなのか無意識というべきなのか。白井にはまだ水瀬がわからない。

とはいえ、水瀬も自分自身がわかっていない。


「髪飾り・・・勝手につけてしまって嫌でしたか・・?」

「え。」


白井が振り返る。


「全然です!むしろありがとうございます。私、髪飾りとかつけるの苦手なので・・・。」

「そうでしたか・・・。良かったです。」


嬉しそうな白井を見て、水瀬は一安心した。


しかし、白井の表情は一変、少々、怒ったような顔をした。


「水瀬さん、どうしてそんな恥ずかしいこと、平気で言えるんですか?」

「・・・恥ずかしいこと?」


水瀬は良くわからない。

白井が言っているのは「可愛い」とか「似合ってる」といった、女性を褒める言葉のことである。水瀬は無意識に思ったことそのまま伝える癖があるため、すぐにぱっと声に出してしまうのである。


「そういう言葉は恥ずかしい言葉なんですか?」

「だからそういうところです!!」

「!?」


 水瀬は別に女性に手慣れているわけではない。逆に世間知らずなだけ。嘘をつかなければ良い、そういう感じの正直すぎる点があるだけなのだ。

 

「可愛いとかそういう言葉は本気で好きになった女性にかける言葉です。むやみに言っちゃ駄目なんです!」

「・・・しかし、学生の頃、同級生が何人かの女性に可愛いってよく言っていたんですが・・・。」


水瀬の知る世界はほとんど学生時代。そして、水瀬の教科書は学生時代の風景だけである。


「そんな男はクズです!!女の気持ちをもてあそぶただのチャラ男です!」

「では、私はチャラ男だと?」

「そういうことじゃないです!!」


どう説明すれば良いものか、白井は頭を悩ませた。

水瀬もさっぱりわからない状態である。


「つまり、私が言いたいのは・・・・・・水瀬さんにそういうこと言われると、調子が、狂う・・・。」

「・・・。」


店内がしぃんと静まり返った。

その気まずさに耐えきれず、白井は赤い顔を隠しながら水瀬の服を引っ張った。


「・・・もうすぐ、バスの時間が来ちゃいます・・・。帰りましょう・・・。」

「・・・はい・・・。・・・?」


 その帰り、来たときはずっと二人並んで来たのに、今は白井が縮こまりながら水瀬の前をひたすらに歩いている。


(早く帰りたいのかな?)


そういうことではない。


 ショッピングモールから出たところで、一台の車がやって来た。


「よっ。(あき)。」

「・・・宮河・・・。」


 宮河がちょうどやって来た。仕事終わりにちょっとよってみたらしい。


「二人とも、乗る?」

「じゃあ。遠慮なく。」


宮河は二人の仲が気まずいことを察し、水瀬が助手席、白井が二列目に座らせた。


「なぁ、暁。なんかやった?」

「・・・やってないはずなんだけど・・・。」


 悩む水瀬は置いておいて、宮河は後ろを見ることができる鏡を見た。そこには行きではつけていなかった髪飾りをつけ、夕焼けを眺めながら頬を赤らめる白井の姿があった。


「なぁ、夏希ちゃんのあの髪飾り、結構高そうだけどどうしたんだ?」

「あれ?白井さんが気に入ったみたいだったからお礼ということで買った。」

「・・・へぇ。」


(なるほどなぁ。そういうことか。)


何かを察した宮河は隣にいる水瀬の頭に左手を乗せた。


「お前はもうちょっと恥じらいを持ったほうがいいぞ。」

「・・・宮河に言われるとむかつく。」

「はぁ!?」


真顔で水瀬は宮河の手を退けた。


「言っておくけど、お前が思っている以上に私は世間を知らない。女性と付き合ったこともないし、誰かを好きになったこともない。」

「・・・そうだったな。」

「昔から私には(さち)を語る資格が無いらしい。」


 たまに水瀬は宮河に言う。

「私に幸福は無い」と。


 水瀬は今まで、幸せだと感じたことが一度もなかった。学校のアンケート等で「最近嬉しかったことや幸せだと感じた出来事はなんですか?」という質問が多々あった。そのたびに、必ず誰もが幸せを感じたことがあるという前提で質問がされている。

そんな質問に水瀬は毎度、答えれず、教師にカウンセリングを薦められてきた。


 しかし、そんな水瀬でも、一度だけその質問に答えることができた。

それは、宮河恭介と親友になったときだ。

まだその時が最近と言える頃のアンケート。それだけには書くことができた。水瀬にとっては宮河は嬉しいと感じられる存在であることに間違いはない。


(一人だけでいい。)


そんなことは水瀬しか知らない。


「お、暁、着いたぞ。」

「ありがとう。」


宮河は水瀬の住むマンションの前で止まった。


「宮河。白井さんをよろしく。」

「了解。」

「白井さん、また明日。」

「・・・はい。」


水瀬は車のドアを閉め、二人に手を振った。



「さて、あいつもいなくなったことだし、何があったんですか?夏希ちゃん。」

「・・・っ。」


白井は二列目の座席でまたも縮こまった。


「その髪飾り、暁が買ったんですよね。」

「はい。」

「で、それで、あいつが何か言ったんですよね?」

「・・・はい。」


宮河の予想が見事に当たった。


「可愛いとかなんとか、言われたんでしょ。」

「な、なんでわかるんですか!?」

「エスパー。」

「・・・。」

「冗談っす・・・。」


冗談を真顔で返されたら心が折れる。


「まぁ、あいつのこと一番知ってるのは俺ですからねー。暁が言いそうなことくらいはわかりますよ。」

「・・・凄いですね。」


白井は宮河に今日の出来事を話した。


「水瀬さんって、本当に世間知らずなんですね。」

「全くですよ。あいつ、外にあまり出たがらないんですよ。だから俺がコンタクト買ってきてやってて・・・。」

「・・・コンタクト?」

「あっ。やべ。」


水瀬は同僚たちに目が赤いことを話していない。


「水瀬さんってコンタクトだったんですか?」

「え、あ、まぁ。」


白井はへぇ、という顔をした。


「夏希ちゃんの話を聞いている限り、なんか誤解みたいなのありますけど、あいつ、ベタなだけなんですよ。」

「ベタ・・・。」

「なんていうか、正直すぎるというか・・・。人の中でも特に女性と関わらないもんですから可愛いと思ったら声に出すんですよ。うるさいと思えばすぐうるさいって言うし。あーいうところは直してほしいけど。」

「たしかにそうですね。」


ちょっと水瀬に関して詳しくなった白井は宮河の話に笑っている。


「なんで、可愛いとか似合ってるとかあいつに言われたら本心だと思ってください。あいつは仕事以外でお世辞も嘘もつきませんから。」

「・・・はい。」

「あ、ここ右でしたっけ?」

「はい。そうです。」


二人は長々と水瀬に関して話していた。


「宮河さん、今日はありがとうございました。」

「いやいや。こちらこそ今日は暁を外に連れ出してくれてありがとうございます。あいつも多分同じこと思って髪飾りをプレゼントしたと思うんで、大切にしてやってください。」

「はい。もちろんです。」


宮河に家まで送ってもらった白井は宮河と連絡先を交換し、宮河は我が家へと帰って行った。


「・・・プレゼント・・・。」


白井はハーフアップを解いたあと、髪飾りを優しく両手で包んだ。


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