20、まち針
お待たせいたしました!!
先週は更新できず申し訳ありません!!
うっきうきの白井とその様子を見守る水瀬は近くの大きなショッピングモールまでやって来た。思っていたよりデカかったのか水瀬がぽかんと上を見上げている。
「たしか、男性の服は一階にありました。」
そう言われ、二人で男性の服を売っている場所を探した。
「あった〜!」
白井が見つけ、駆けつける。
服の狭い道を通りながら水瀬に似合う服を探す。
「水瀬さんってどんな服がお好みですか?」
「特にありませんね。私はセンスもありませんので白井さんが選んでしまってもいいですよ。」
「本当ですか!?」
ルンルンで水瀬に似合う服を探しに白井がいった。
水瀬は試着室の前で待っていろと言われたのでおとなしく試着室の前で白井を待った。
こう見えても実はちょっと楽しげの水瀬であった。
誰かとこのような場所へ出かけたことはなく、更に女性ということもあり、当然振り回されること覚悟の上で来たのだが、思ったより楽しかったのが現実だ。
「お客様。」
突然誰かが話しかけてきた。
一瞬驚いた。
話しかけてきたのは店員だった。店員は水瀬がこの店の客だから話しかけたのだが、水瀬にとってはほとんど言われたことのない言葉であり、良い慣れた言葉だった。
「お客様」というものが今は自分のことであることを理解するのに少し時間がかかった。
「・・・はい。」
水瀬が店員の方を向く。
「何かお探しですか?」
「・・あぁ、えっと・・・。」
柔らかな笑顔で話しやすさを醸し出したオーラが悶々と漂っている。
これが営業スマイルというやつだろう。
しかしなんだろう。この違和感は。
営業スマイルというものは、営業スマイルということを悟られないスマイルのはずだ。しかし、笑顔の苦手な水瀬でさえ、見抜くことが出来た、作った笑顔。
これは営業スマイルと言えるのだろうか。
違う。全く違う。
彼女の、白井夏希の営業スマイルはもっと自然だった。
柔らかな声、はつらつとした顔、客と友人だったかのように話す態度。白井を見て笑顔を勉強してきたからだろうか、自然な笑顔と不自然な笑顔の判断がつくようになった。
「いえ、そういうわけでは・・・。」
「では、夏用に涼しいTシャツなど、いかがでしょう。最近は暑いですからこのシャツなんかも───」
ただ、人を待っているというだけなのに店員は水瀬に商品を薦めてきた。これが商売なのだろうが・・・・
これでは駄目だ。
彼女の接客には針に糸が通っていない。
工程中の布にまち針がほんの少し付けられている程度。肝心の針は何処かへ転げ落ち、糸は必要な分切られてすらいない。
まるで突然押しかけて閉めようとしたドアに足を挟めこむセールスマン。
「すみません。この服のLサイズってありますか?」
店員の話を遮り、カゴいっぱいの服を持った白井が言った。話していた店員は口を止め、白井が持っている服を見た。
「あ、あると思います。探してきますのでちょっとお待ち下さい。」
「は〜い。」
店員は服を探しに何処かへ行ってしまった。
「白井さん、ありがとうございます。」
「いえいえ!ああいう店員はどこにでもいますからね〜。」
先程、白井は水瀬を店員から逃す為に、適当な服でLサイズを探していると嘘をついた。
「あの店員さんは駄目ですね。接客のプロから見たらまだまだです。ただ売上に貢献しようとするだけの行動。あれじゃひどすぎるお人好しくらいし落とせませんよ。」
「・・・そうですね。」
流石は白井である。
「それにさっき、『ちょっとお待ち下さい』って言ってましたよね!ああいう場合は『少々』とか『今しばらく』を使うべきです!!」
「ちょっと細かすぎやありません?」
「いえっ!こういうところの気遣いも大切なの、水瀬さんもわかりますよね!?」
「えぇ。まぁ・・・。」
プンスコと影で店員に文句をいう白井であった。
「では、白井さんなら私がさっきみたいに何もせずに立っていたらどう話しかけますか?」
「私がですか?」
ん〜、と、ほんの少し考えたあと白井はこう言った。
「まずは、お客様って声をかけます。その後、何かお探しですか?それともお困りですか?と、聞きます。」
「はい。」
「それで、特に無いと言われた場合、無理に商品を薦めるのではなく、何か困ったことやお探しの物があればお伝え下さいと、困った時に何かしますよっていうアピールをしますね。」
「さすがは白井さんですね。」
「えへへ。」
白井は水瀬に褒められて上機嫌であった。
そこへ、先程の店員が白井に指定された服を持ってやってきた。
「お待たせいたしました!」
白井は店員にお礼を言い、服を受け取った。
ついでに、試着室の許可も取り、いよいよ水瀬のファッションショーが始まる。




