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Wine・Red  作者: 雪白鴉
二章
18/70

16、夏の猛獣

 グランド・リリスの近くにある大きな公園には、見たこともないほどの大きな人盛りが出来上がっていた。


 誰もがスマホやカメラを手に取り、その公園の中央に立つ、女性を撮影していた。


「それでは本番行きまーす。3・2・1───」


 大きなカメラが動き出し、照明も素晴らしいほどの位置に配置された。


 現在、この公園ではCMの撮影会を行っているようだ。暑い夏が近づく中、公園などで必要とされるのは飲み物だろう。新しく開発されたスポーツドリンクのCMに八城珠江が出演するため、その八城を一目見ようと人が集まってきたのである。


八城珠江がカリテルに宿泊したのは、CMの撮影の為である。

 八城は大物であるが故に、その撮影もまた大きなものになるという。公園だけではなく、近くの川や町中もすっかり使われるのだ。


 その頃、八城の担当だった水瀬と白井は少し時間が空いたため、新人と一緒にホテルの掃除をしていた。


「石川さん、手すりもお願いします。」

「はいっ!」


石川颯人、二十四歳。

彼は今年入った新人で、水瀬にちょっとかわいがってもらっている水瀬似の性格を持つ低身長の男である。


「仕事少ないっていいですねぇ〜。」

「そうですね、先輩!」


仕事が今のところ少なくて、白井は大喜びだった。それに倉橋が共感した。


倉橋千尋、二十二歳。

彼女も石川同様、今年入った新人だ。彼女は白井タイプで社交性がある。


「白井先輩、本音ダダ漏れは駄目ですって。」

「そうですよ〜。」


すかさず西野がツッコミを入れた。それと同様に、山田もツッコミを入れた。


山田雅紀、二十三歳。西野と同い年。

彼も二人同様、今年入ってきた新人。彼は西野と同じタイプで面接試験の時のトップバッターである。


「それにしても掃除をしてもしてもホコリが少ししか出てこないです。」

「そういえばそうですね。手すりの裏もサビ一つ無くて・・・。」


新人は皆こういう。

お客様に快適に過ごしてもらうために、掃除は絶対に欠かせないのである。


「ホテルは常に綺麗にしておかねばならないのです。この状況でもホコリが一つ落ちていても駄目なんですよ。」


といっても、どうしてもお客がいる以上、砂やホコリは入る。そのたびにホテリエは掃除をしなくてはならない。

勿論、玄関先もそうだ。

玄関先は出だしと似たようなもの。「初め」は、あらゆるものの印象を示している。誰だってオーケストラの演奏の初めが下手くそであればその後も聞かない。ホテルもそれと同じようなものである。


「水瀬さん、後で玄関掃除に行ってきますけどいいですか?」


白井が水瀬に許可を取った。


「勿論いいですよ。ここらへんは私達で行いますから。」

「お願いします!」


白井と倉橋は一通り掃除を終え、玄関掃除に向かった。


「今日は暑いですからお気をつけて。」

「はぁ〜い!」


水瀬が白井と倉橋に熱中症の対策を促した。


「確かに今日は暑いですね。」

「えぇ。」


西野が持っていたハンカチで額の汗を拭いた。

比較的涼しく快適な生活が出来るホテルだが、それでもやはり、夏というものは暑い。日差しそのものがとても暑いのだ。


「石川さんと山田さん、ホテリエの制服は暑いので水分補給はこまめに。」

「わかりました。」

「はい。」


こまめに水分補給をしなければ熱中症になりかねない。今までにも倒れそうになった新人のホテリエを何度も見てきた。


「去年、俺も熱中症になりかけましたもんねぇ。」

「そんなこともありましたね。」


去年、入りたての頃、西野も熱中症になりかけたという。その熱中症の恐ろしさを西野はしっかりと知っていた。


だからこそ、対策はしっかりしなければならない。


「誰かー!!」

「!」


吹き抜けになっている一階のエントランスから男の声が聞こえた。

ちょうど二階にいた水瀬や西野がエントランスを上から覗いた。そこには倒れ込んだ八城珠江と慌てて駆け寄った白井と救急車を呼ぶ倉橋、慌てる撮影関係者の姿があった。


 すかさず水瀬は走り出し、西野、石川、山田に指示をした。


「石川さんは私についてきてください。西野さんと山田さんは体を冷やせるものをいくつか。数は指示できませんので考えて用意して下さい。」

「えっと・・・ということは・・・。」


体を冷やせるものを使うといえば・・・。


「熱中症です!」

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