15、曙と黄昏
無事にその日は終わり、東こよりは笑顔でホテルを旅立った。綺麗なお辞儀は外見だけ。水瀬の脳内はガッツポーズでいっぱいだった。
毎度のことであるがこよりが帰ったあとのホテリエはご満悦である。
「もう、本当にありがとうございます!!」
「いえいえ。仕事をしただけですよ。」
ホテリエが水瀬に頭を下げる。支配人すら一緒に頭を下げるのだった。
服を着替え、水瀬はライバルホテルをあとにした。
近くのバス停まで行き、時間に停まったバスに乗って家の方面へ帰っていった。
「・・・夕陽が綺麗だ・・・。」
あまり見ようとも思わずほとんど見たことのない夕焼け。この時間帯になっても夏なのでまだ明るい。小学生だろうか、子どもたちで追いかけっこをしている。門限は無いのかと水瀬はなんとも古臭い考えをしていた。
数十分経ったところで水瀬の降りるバス停が見えてきた。ふと窓の外を見ると、ポニーテールの女性が立っていた。
「白井さん・・・。今帰りなのか・・・。」
バスは白井の立つバス停の前で停車すると、バスの出入り口を開けた。
バスの運転手にお礼とお辞儀をして水瀬はバスから降りた。
「あ、水瀬さん!!」
水瀬に気づいた白井が駆け寄ってきた。
「どうでした?こより様。」
「いつも通りでしたよ。」
「お疲れ様です、水瀬さん。」
あまり立ち話をするわけにもいかないがちょっとばかしこよりの話で盛り上がった。
白井もこよりの担当にあたったことがあり、随分と悩まされた客の一人だった。本当は水瀬が担当するはずだったが、まぁいろいろあり、やむを得ず水瀬と歳が近く、話しやすい白井が選ばれたというわけである。
「ふふっ、こより様ったら相変わらずですねぇ。」
「えぇ。そうですね。」
くすっと白井が笑う。水瀬は静かに返した。
「では、水瀬さん、また明日。」
「はい。」
バスに乗った白井に水瀬は小さく手を振った。
バスが見えなくなりすぐそこの家へ帰ろうとしたその時だった。
「よぉ、水瀬。」
「!宇山さん・・・。」
宇山の久しぶりのご登場である。
ちょっと遠くにいたが、水瀬を見つけて宇山は近くにやって来た。
「なんだなんだ?白井と良い感じ?」
「そういうのじゃありませんよ。」
「ノリ悪いなぁ。」
「そういう性格なので。」
ノリの悪い水瀬に宇山が不貞腐れていた。
白井との他愛も無い話で少し元気に戻った水瀬は宇山と話すことにした。
「ライバルホテルの手伝いに行ったんだって?」
「はい。東こより様がいらっしゃいましたので。」
「それでお前を呼ぶのか・・・。」
真夏の夕方、外のバス停で二人で話すのはちょっと暑いがたまにはこういうのも悪くないと水瀬は考えた。
話し下手な水瀬と信頼の厚い話しかけやすい宇山の話は思ったより続いた。時計を見る暇もなくただ宇山の話に乗っかっているような感じだった。
「へぇ〜、そんなお嬢様が朝からスムージーとはね。」
「えぇ。実際、朝一番に、スムージーを飲むのはいいらしいですよ。」
「物知りだな。」
「まぁ、こより様にスムージーを薦めたのは私ですからね。」
「そうなのか?」
「はい。」
朝一番に飲むと良いものは主に水や白湯、青汁だが、流石に幼い子どもに白湯や青汁を薦めるのは気が引ける。そこで水瀬が選んだのはスムージーだった。
スムージーには野菜や果物の酵素が多く含まれており、その酵素が基礎代謝の向上を手助けしてくれるのである。起きしなの空腹時に摂取すると体内に吸収されやすいとのこと。
「私がお薦めしたのは三年前くらいですからこより様はまだ八歳ですね。」
「確かにその年齢ならスムージーが妥当だな。」
ただ、やはり起きしなは温かい飲み物がオススメである。
体温に近い白湯は、睡眠中に抜けていった水分を補う時に体内に入りやすいためやはり白湯が一番良いのかもしれない。
「カフェイン等はやめましょう。」
「まじか・・・。」
反応から見て宇山は寝起きにカフェインでも取っていたのだろう。
しかし、今のところ水瀬が思いつくカフェイン入りの飲み物は甘党の宇山が飲みそうにもない飲み物ばかり。あるとすればココアだが、ココアはカフェインは少ない飲み物だ。
「もしかしてココアですか?」
「そうだ、なんでわかったんだ!?」
「宇山さんは甘党なので。」
「あ・・・。」
宇山は恥ずかしそうに頭をポリポリかいた。
「勘違いなさっているかもしれませんがココアにはあまりカフェインは入っていませんよ。」
「そうなのか!?」
「えぇ。どちらかというとココアは寝起きにいいですよ。」
「へぇ。」
ココアは血糖値の上昇を抑えてくれる効果があるため、寝起きには良い飲み物である。
「よし、これからも続けよう。」
「良いことですが糖尿病にはお気をつけて。」
「わ、わかってる!!」
宇山はちょっと賢くなったと言って車で帰って行った。




