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Wine・Red  作者: 雪白鴉
二章
16/70

14、お気に入り

 東こより十一歳の彼女の朝は早い。

七時には必ず起き、起きしなにフルーツスムージーを飲むのは習慣である。


「黒田。ルームサービスをお願い。」

「承知いたしました。」


ホテルに泊まった時はスムージーは持ってこらず、ホテル側の出すスムージーを飲むことにしている。


「ほんっとうに家の使用人は行動が遅いのかしら。もっと早くリリスに連絡しておけば取られずに済んだのに。」


ごちゃごちゃいつものように使用人に愚痴を叩く。黒田は焦りながらすぐ電話機に手を伸ばした。


すると、部屋のドアが三度叩かれた。


「誰?朝から。」


こよりがそういうとドアの向こうから男の声が聞こえた。

その声はこよりが聞き慣れた甘く落ち着きのある声だった。


「東様。ルームサービスです。フルーツのスムージーをお持ちしました。」

「えっ!?」


黒田が驚いてそのドアを開けると水瀬が立っていた。


「こ、これは・・・水瀬さん・・・。」

「おはようございます、黒田様、東様。」


ポッカーんと黒田は水瀬を見つめていた。


「水瀬様ぁ!!」


そこへ飛んで出てきたのはこよりだった。


「水瀬様!どうしてこのホテルに?もしかして私がここに居ると知って!?」

「えぇ。ここのホテルの方に聞きまして。」

「まぁ!!このホテルもやるじゃない!!」


このホテルを見直したと言わんばかりの笑顔だった。


水瀬は黒田にスムージーを渡し、一礼するとすぐに部屋から離れた。


(相変わらずお元気で・・・。)


今回は何も無いよなと願いながら次の仕事へ移った。



「ねぇ、黒田、さっきの水瀬様だったわよ!!」

「はい、そうですね。」


こよりの機嫌が直り、黒田は安堵した。


こよりはご機嫌のまま食堂へ向かった。


「ここへ来るのは初めてだからなにがあるのかわからないわ。」


ここへ初めて来る人はこう言う。

リリスとライバルホテルとして有名なこのホテルではあるが、リリスに追いつくことは出来ていない。

ここらへんのホテルでリリスに楯突くことができるのはこのホテルしかないだけなのだろう。


常連客も少ないこのホテルはリリスの予約が取れなかった者でいっぱい。例えば、修学旅行生とか。


「リリスはサンドイッチがあったでしょう?ここにもあるの?」

「さぁ、どうでしょう。確認してまいります。」


黒田はこよりの要望に応えようとサンドイッチがあるかどうかを確認しに行った。

しかし、それは無駄足だった。


「黒田様。」

「あっ!」


そこにはお盆の上にこよりがいつも食べる朝食を並べて持つ水瀬がいた。彼女のことはなんでもわかりますよと言わんばかりの顔であった。


「僭越ながらお先に用意させていただきました。こちらのホテルに来られるのは初めてだと思いまして。ご迷惑でしたでしょうか?」

「あ、い、いえっ!とんでもない!!あ、ありがとうございます・・・!」


黒田は水瀬から朝食を受け取り、こよりのもとへ向かった。


「凄い・・・。あのこより様のことを隅から隅まで理解していらっしゃる・・・!!」

「そうですね・・・。」


陰から水瀬とこよりの様子をうかがうこよりの元担当者の二人は、水瀬を感心の目で見ていた。


「あれがベテランかぁ・・・。」


あぁなれはしないと悟った二人は自分の仕事に戻った。



お昼も過ぎ、水瀬がフロアを歩き回っていると可愛らしい服装を着たこよりと黒田が向かって来た。


「ねぇ、水瀬様。この辺で涼しいところはある?」

「涼しいところですか?」


この暑い中、何もしないというのも大変なことである。


「そうですねぇ、図書館などいかがでしょうか。」

「図書館?」


涼しく暇を潰せる場所といえば図書館だろう。


「でも私、あんまり本は好きじゃないわ。」

「そうですか・・・。では、なにかしたいことはありませんか?」

「したいこと・・・?」


こよりは真剣に自分が今、やりたいことを考えた。


「私、ドラマが見たいわ!」

「ドラマ、ですか?」


こよりが見たいといったのは大人でも子どもでも楽しめるような恋愛映画だった。


「その映画なら一キロ先の映画館で三時から上映されるようですよ。」

「ほんと!?」

「はい。」


こよりは目をキラキラさせながら黒田に席を取ってもらうように頼んだ。


「水瀬様は?」


こよりは水瀬も一緒に来てほしいらしい。

しかし、違うホテルでも仕事は仕事。一緒に行くことは出来ないのである。


「申し訳ございません。私は仕事がありますので。またの機会、お誘いください。」

「そう。わかったわ!!次は一緒に行きましょうね!!」

「はい。」


こよりは黒田と一緒に映画館へ向かった。

映画は約三時間。その間、水瀬はゆっくりできる。ようやく水瀬は休憩の時間ができた。


「お疲れ様です。」


他のホテリエは水瀬のために珈琲を用意してくれていた。


「本当にありがとうございます、水瀬さん。」

「いえいえ。あの方相手だったら誰だって疲れますよ。私だって最初は青い顔しながら仕事していたそうですから。」

「へぇ〜、そうなんですか〜。」


今の水瀬は東こより耐性で出来上がっているが、初めからではない。


こよりが「リリス」にやって来た時、その担当に水瀬が当たってしまった。先輩たちからはお疲れ様と何度も言われた。東こよりは「リリス」のレッドリストらしい。

この時、水瀬はまさかこよりに気に入られるとは思ってもいなかった。


こよりは水瀬というお気に入りが出来たことで、近くに来た時は必ず「リリス」に泊まる。そのたびに水瀬はこよりの担当になるのだ。何度も何度も担当していれば耐性がつくのもおかしくはないだろう。


毎度の如くため息を付く水瀬に先輩たちは哀れみの目で水瀬を見てくれていた。時には焼き肉を奢ってくれたりなど、優しくしてもらうこともしばしば。

ただ、その先輩たちは水瀬がこよりに気に入られて、少し安堵していたのかもしれない。



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