11、辛口の日
お昼が過ぎ、水瀬はいろんなことを白井に任せ、半日の休暇に入った。
「では、あとはよろしくお願いします。」
「はい!」
水瀬は帰路についた。
すぐ近くのマンションの鍵を開ける。
小さなあくびをしながら部屋に入り、冷房を付けた。
梅雨明けだというのにこの暑さ。地球温暖化も進んだものだ。
洗面台へ向かい、黒のカラーコンタクトを外した。
鏡に映るのは虹彩も瞳孔も真っ赤な自分の眼。深くため息をつく。蛇口をひねり、水で手を洗い、うがいをした。
「・・・あつ。」
カーテンを開けると部屋が暑くなったのですぐに閉めた。
「真っ昼間から何をすればいいのやら・・・。」
何もやることがなく、ぼーっとしているとインターホンが鳴った。
「おーい、暁〜。居るかー?」
「・・・ん。何、宮河・・・。」
ドアを開けるとそこには宮河が立っていた。手にはタッパーの入ったレジ袋をぶら下げている。
水瀬は宮河を中へ入れた。
「水でいい?」
「できれば味がほしい。」
水瀬は冷蔵庫に入っていた麦茶を取り出し、ガラスコップに注いだ。
「で、なんの用?」
「なんの用って、お前、俺が邪魔みたいに言うなよ。」
「そんなこと思ってない。」
「はいはい、そうですか。」
宮河は麦茶を飲みほした。
「で、お前にプレゼント。」
「何を?」
「嫁の作った麻婆豆腐。」
「・・・。」
持ってきたタッパーは麻婆豆腐だった。しかも宮河の奥さんが作ったものだそうだ。
「いやさぁ、嫁がさ、辛いもの好きで麻婆豆腐辛くするんだよ。俺は中辛がギリギリ。」
「・・・で?」
「で、辛いの多く作りすぎたらしいからお前にあげに来た。」
「私は処理係か・・・?」
しかし、まだ昼食も食べていなかった。ちょうど昼食にするのもいいかもしれない。
水瀬は麻婆豆腐を電子レンジで温めた。
「宮河、今日休み?」
「おう。代休。」
「良かったね。」
温まった麻婆豆腐を取り出し、箸を用意した。
「なぁ、俺も辛いやつ食べてみたい。」
「無理じゃなかったっけ?」
「興味くらいはある。」
水瀬は小さなお皿と箸をもう一組用意した。
見るからに辛そうで、匂いからもう辛い。
「いただきます。」
水瀬は一応、宮河のために水を用意した。
「からっ!!」
あまりの辛さに宮河は絶叫した。
近くに置いてあった水を飲みほし、足らなかったのかまた水をつぎに行った。(水道水)
「・・・だからやめたほうが良かったのに。」
水瀬は坦々と麻婆豆腐を口に運んだ。
さすがの辛さではあったものの、水瀬にはちょうどよいくらいだった。
「宮河、美味しいよ。」
「・・・まじかよ・・・。」
水無しで水瀬は麻婆豆腐を食べた。
途中から白飯も加わり、見事タッパーの麻婆豆腐は完食された。
「ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。」
水瀬は流しに食器たちを運び、すぐに洗い物に取りかかった。
その時、水瀬のスマホが鳴った。
宮河が確認すると、白井からの電話だった。
「お前、ついに女の子の連絡先ゲットしたのか?」
「そんなこと今は関係ない。」
水瀬は洗い物を止め、宮河からスマホを取った。
「もしもし。」
『あ、水瀬さん?すみません、お休み中・・・。』
「いえ。なにかありましたか?」
『それがちょっと面倒事がありまして。』
「面倒事?」
嫌な予感がしたが、水瀬は白井の話を聞いた。
『先ほど、ライバルホテルの従業員がやって来たんです。』
「・・・それで?」
『水瀬さんを明日一日、借りたいと。』
「・・・え?」




