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Wine・Red  作者: 雪白鴉
二章
12/70

10、常時仕事

 ホテルの入口の前に黒くでかい車が停まる。

スーツ姿で出てきた男は後ろの席のドアを開けた。


「いらっしゃいませ、八城様。」


いかにも裕福そうな服装の婦人が出て来た。

婦人に白井と水瀬が美しい礼をする。警備隊の宇山たちも一緒に礼をする。


「八城様の担当を務めます、水瀬と、」

「白井です。」


再度、軽く礼をした。


「そんなにかしこまらなくても良いわ。悪目立ちしちゃうから。」

「これは失礼いたしました。」


今日、二人の客に対する態度はほんの少し違う。

勿論、いつもの客に手を抜いているわけではない。接し方の根本から違うのだ。


八城珠恵、五十七歳。今でも絶大な人気を誇る女優である。去年一番大ヒットしたドラマの主演を務めた超大者俳優の中の一人だ。


「八城様とSPの方のお部屋は近くにしておきましたのでご安心ください。」

「ありがとう。」


一階に飲み物を買ってきていた人たちは大女優八城珠恵を一瞬で理解した。

ざわざわと騒ぎ立てる。

八城がニコッと手を振るとピンと伸びした腕を大きく振るファンも居た。


カリテルではそう珍しいことではない。

稀に、ドラマやアニメ、映画の打ち上げが行われるこのホテルは芸能人遭遇スポットとしても有名である。


集う観衆を押し退け、やっとたどり着いたエレベーター。

三十七階のボタンを押す。そこから一直線で三十七階にたどり着いた。


「こちらのお部屋です。」


水瀬が部屋のドアを開ける。

眺めの良い大きなガラス窓。質の良いベッドに新品としか思えないバスルーム。何もかもが完璧に仕上がっていた。


「何かございましたらご連絡ください。」

「えぇ。ありがとう。」

「では、失礼いたします。ごゆっくり。」


SPに部屋を案内したあと、颯爽と休憩室へ戻った。


「お疲れ様です、先輩。」


一人で待っていたのは西野だった。西野は二人分の珈琲を作って待ってくれていた。


「今年入った新人さんは?」 

「今、支配人に呼ばれてます。」

「そうなんですね〜。」


水瀬と白井は珈琲カップを持った。


「水瀬さん、この後もお仕事なんですよね?」


白井が聞いてきた。


「はい。新人の教育係ですから。」

「午後は私が担当ですね。」


ほとんど休みも入れず、水瀬は新人の教育をしなければならない。他のホテリエは水瀬たちの代わりに貸し出されている。

その代わり、水瀬は今日、午後から休みである。最近、ずっと働きっぱなしだったり、夜勤もあったため、支配人に、「流石に休めよ」と言われ、休みを取った。新人が立派に働けるようになったらもう少し休みが増えるかもしれない。


しばらくする間に新人の七人が帰ってきた。


「では私はこれで。」

「はい。」


珈琲を飲みほした水瀬は立ち上がり、新人を連れて休憩室を出た。


「水瀬先輩って大変なんですね。」

「ですね〜。なんかずっと働いてる気がします。」




「皆さん、大分慣れてきたと思いますがどうでしょう。」


水瀬が新人に聞く。しかし、真顔である。


「た、確かに慣れてはきました。ですが、お客様の前で堂々と出来るかがまだ心配です。」

「そうですか。」


新人の一人、倉橋が言った。

倉橋は白井タイプで決して水瀬タイプではない。

笑顔が得意という彼女は新人ながらも、客に対しての態度もバッチリである。


「倉橋さんは私ではなく白井さんを見て成長するのが一番良いでしょう。私は接待が苦手なので。」

「わ、わかりました!!」


毎回水瀬は、新人ひとりひとりに適した回答をする。それが良かったらしく、水瀬は新人に信頼されつつあった。


新人七人の中、一人だけ、水瀬と似た性格の者がいた。

礼儀や作法が認められ、合格したが水瀬と同じく接待を苦手とする。水瀬としてはフロント業務はやめた方が良いと考えている。


「石川さん。」

「はいっ!」


石川とは、水瀬と似た性格の持ち主の新人である。


「石川さんは前も言った通り私の性格に似ています。私の仕事中、ちゃんと見ていましたか?」

「はい。メモも残しておきました。」


几帳面な性格で内ポケットに入れられた小さなメモ帳にはぎっしりとメモが残されていた。


「石川さんは今後、私と一緒に仕事をすることが多いかもしれません。笑顔も大事ですが貴方の長所を伸ばすのも大事です。それくらい熱心なのであれば問題ないでしょう。」


水瀬の経験上から考えられた指摘だった。

石川は頑張りますといった目で熱心に水瀬の話を聞いていた。


「今日一日は先輩ホテリエの観察をしてください。先輩から盗めるものはとことん盗んでください。」

「はいっ!!」


元気よく新人たちが返事をした。

するとそこへ、西野がやって来た。


「水瀬先輩。1235号室のルームサービスお願いします。」

「わかりました。」


西野はまた違う部屋へのルームサービスをするため、1235号室は水瀬が担当する。


「今の時間帯はカフェですね。石川さんは私のところへ、山田さんは西野さんのところへ、あとの人はエントランスでの仕事をお願いします。」


今からやる仕事の役割分担をした後、水瀬、西野、石川、山田はルームサービスの準備に取り掛かった。


ルームサービスは客が部屋の電話を使って頼むものである。時間帯に合わせてモーニング、カフェ、ランチ、ディナーなどのサービスがある。


藍鼠色のネクタイをしっかりとしめ、白い清潔な手袋をはめる。

ルームサービスカフェを準備し、それぞれの部屋へ向かった。


1235号室へやって来た。

水瀬が三度部屋のドアをノックする。二人はドアスコープの前でかしこまった。

部屋から出てきたのは一人の中年男性。ちょっと小腹が空いたらしく、一緒に宿泊している友達とカフェを楽しみたいらしい。


「ルームサービスです。」

「ありがとう。早いなぁ。」

「痛み入ります。」


誰に対してもクールを保つ水瀬を見た石川はこうなりたいと思った。

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