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Wine・Red  作者: 雪白鴉
二章
10/70

8、選抜試験

お昼が過ぎ、事務室に約三十人の試験生が入る。

水瀬の説明も終わり、いよいよ面接の開始である。


「試験場号一番」

「はい!」


元気よく立ち上がり試験生が入って来た。

キッチリ真面目とした西野のような人柄だ。


試験番号と名前を言い、着席をする。流石に緊張した素振りだ。


「あのオドオド感、懐かしいな」

「そうですね」


水瀬の隣に座る同僚がこそっと話しかけてきた。


「それではまず初めに、なぜ、このホテルで働きたいと思ったんですか?」


テンプレートで始まる。


「はい。このホテルは設備が良く、ホテリエの方々も評判が良いと聞いています。そんなホテルでホテリエの先輩方と働くのはとても勉強になると思い、このホテルで働きたいと考えました。」


緊張はしているがしっかりと答えてくれる。少し言葉が足りないが、真剣で伝わってくる話し方に水瀬は良い評価を与えた。


「なぜ、ホテリエになろうと思ったんですか?」

「はい。私がまだ幼い頃、ホテル内で迷子になってしまい泣き叫んだことがあります。その時、ホテリエの方に助けてもらいました。迷惑そうにしているお客とは裏腹に笑顔でなんの躊躇いもなく接してくれるホテリエをかっこいいと思いました。」


ちゃんとした理由だ。

水瀬の場合、なんとなく簡単に入れそうだったから入った、程度だった。


「更に、また違うホテルに行った時、日本語がわからない外国人客に戸惑いもせず話している姿に憧れを抱きました。」


ホテルには日本人も来るが外国人も多くやってくるため、ホテリエは英語などが話せなくてはならないのだ。確かにその姿を見て、憧れるのは水瀬でもわかる。


長々とした面接も終わり、次は合格者を決めなければならない。誰を合格にして、誰を不合格にするのか、三人で判断をする。


「逸材が多いですね」

「そうだな」


思ったより逸材が多く、決めるに決められなかった。


「やっぱり、接待の上手い人がいい」


同僚が水瀬に言う。

水瀬はサッと目を反らした。


(私が決めるようなことではなさそうだ・・・)


接待が得意とはいえない水瀬が決めることではないということを自分でも理解している。


「七人くらいが妥当でしょうか」

「そうだな。人手不足の中で五人は少ないからな」

「そうですね」


いつもなら五人程度を採用している。しかし、今は人手が不足しており、しかも今回の試験生は逸材が多い。七人がちょうど良いくらいだ。


支配人部屋で三人が悩んでいるところに、ドアを三度、ノックする音が聞こえた。


「失礼します」


三人分のお茶をお盆に乗せてやってきたのは白井だった。

白井は三人にお茶を配ると、三十人の名簿を見た。


「これが試験生の名簿ですか?」

「はい。この中から七人くらいを選ぶのですが・・・」

「七人ですか。多いですね」


水瀬と白井が言葉を交わす。


「やっぱり接待の上手い人は見逃せませんし、仕事をちゃんとする人も見逃せません。どちらを優先するか、ですね」

「えぇ」


白井も椅子に座り、膝にお盆を乗せた。


「ならまずは印象の良い人をあぶり出してみましょう」


白井が言った通りに四人で印象の良かった人を選出した。

髪型や喋りなどの明るい人を基本的に選ぶ。


「十人に絞れましたね」


机に並んだのは十人。半分も減らすことが出来た。


「あとは学歴も大事です。中卒や高卒の人は微妙ですね。やはり大学に行った人が選出しやすいかと」

「なるほど」


ひとりひとりの経歴を調べ、学校や社会などで問題を起こした人を外していく。


「三人、減らせましたね」

「はい」


四人が選んだ人は七人。印象や喋りの上手い人、経歴で問題を起こしていない人、英語の得意な人、学校で委員会などに積極的に取り組んでいた人など、いろいろな項目をもとに七人を選出することが出来た。


「流石、白井だ」

「いえいえ」


三人に褒められて少し照れる白井であった。


「しかし、水瀬、お前は印象が暗すぎる。もっとなんとかならないのか?」

「そんな事言われましてもね・・・」


同僚にいたいところをつかれる。


「新人のホテリエの数人が近寄りがたくて困っているらしい」

「・・・そうなんですか・・・」


初めて知った。

確かに新人のホテリエとは距離が遠いとは思っていたが困っているとは・・・。


「やっぱり笑顔だな」

「ですね」

「難しいんですよ」


同僚と支配人が水瀬に言う。


「逆に怖いから指示をちゃんと聞いてくれたりして」

「ありえますね!!」

「あのねぇ・・・」


同僚は水瀬が怖いから怠けている新人に水瀬が効くと考えている。それに共感する白井。支配人も首を縦に動かしている。


「私だって笑顔を作りたいですよ。いつまでも後輩のホテリエに怖がられていたら私だって傷つきますし」


水瀬はこう見えても笑顔が作りたい。ただ、嘘の笑顔が作れないのだ。


「水瀬さん、口角を上げればいいんですよ?」

「それが出来たらこんなに悩みませんけどね・・・」


指で口角を上げてみる水瀬だが、三人の口から出てきた感想は、


「目が笑ってない」

「死んだ魚の目」

「不気味」

「ひどくないですか?」


なんともひどい感想を言われた。


(まぁ、目はカラーコンタクトだし)


水瀬はため息をついて、残りのお茶を飲みほした。


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