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第九三話 東帝、孟嘗君を追放する

 合従軍は商丘と陶邑を包囲する。

 宋 燕軍


 燕軍は城を包囲した。そこは商丘近くの城であり、既に宋の首府の喉元にまで迫っていることを意味していた。

 楽毅は降伏勧告をし、城の目の前で、抵抗した宋兵の亡骸を見せつけた。それから、合従軍に降れば宋王の暴政から解放され、自由が待つことを説いた。すると宋の民と兵は城の門を開け、降伏を受け入れた。

 無血開城させた直後、燕軍の背後を、宋軍が急襲してきた。疲労の色が見える少数の兵と、高い戦意を見せる大軍による、混成部隊だった。

「楽毅将軍、敵です!」

「我々が城を攻めるあいだに急襲する算段であったのだろう……。城を囮にするとは、優れた判断をする将軍だ。惜しい存在だが……騎劫将軍、大盾で敵を防ぎつつ、矢で応戦しましょう」

 そして将軍騎劫はすぐさま迎撃体制を敷き、宋軍へ猛攻を加えた。

 勢い重視で突撃してきた宋軍は、想定外の迎撃で、大勢が死傷した。楽毅の迅速な指示と燕軍の練度の高い包囲によって、宋軍は将軍華崇までも戦死し、殲滅された。



 宋 商丘


 宋王は太陽の光が入ってこない閉ざされた宮殿で、憔悴(しょうすい)していた。

「余の国は終わりなのか、そうなのか?」

 答える者はいなかった。そこには誰もおらず、宋王は幻影に問いつづけていた。既に正気を失っている王を支える臣下は、誰一人としていなかった。少ない兵を率いて前線で戦っていた将軍華崇は燕の楽毅に殺され、宮廷の重鎮であった向高も、既に逃亡していた。

「民は反乱し、都の商丘と肥沃な田園地帯の陶邑は、もう包囲されてしまった。向高……なぜ逃げた。余がそなたになにをしたというのだ。美人なそなたの妻を我がものとしたからか。そんなことで王を裏切る不忠者だったのか」

 独りでボソボソと呟く宋王は、一つだけ灯された蝋燭の許へ歩み寄った。それを、暗闇を抜け出す唯一の(みち)(しるべ)に感じた宋王は手で触れ、やがて衣に燃え移った火は瞬く間に宮殿をも包み込んだ。


 それから間もなく、宋は合従軍によって攻め滅ぼされた。

 夏の正統後継国である殷。その最後の王である紂王の血族が建てた国は滅び、殷の祭祀を引き継いだ偉大な王国は、ここに滅亡した。

 その領地は余すことなく七雄により分割された。蘇秦は密約通り陶邑とその周辺の地域を秦のものとしたが、獲得した領土でいえば秦は最も少なかった為、全ての国が納得する結果となった。

 また斉は建国以来最大版図を築くこととなった。そしてなにより、一つの歴史的な国を自ら滅ぼした事実は、斉王を更に有頂天にさせた。


 戦勝したのち、東帝は朝議にて、蘇秦を大々的に讃えた。

「孟嘗君、前へ出ろ」

「なんでしょうか、斉王様」

「貴様……余は東帝だ。ふざけているのか!」

「帝などと……馬鹿馬鹿しい。よろしいですか斉王様。その称号は亡国の君主の称号であり、天下に君臨する君主が号するべきものではございません。徳で天下を治めるのが王道であり、力で天下を治めるのが覇道。優れた君主というのは王の道をいき、力に訴えるような野蛮な君主は、その道を忘れ、破滅の道を辿るものなのです」

「口八丁で役に立たぬ貴様の説教など聞き飽きたわ! 誰か! この不遜な男を我が臨淄からつまみ出せ!」

 斉王は孟嘗君を臨淄から追放した。蘇秦は、遂に政敵を葬ることに成功し、邪魔者がいなくなったことに歓喜した。これで斉を滅ぼす為に必要な準備は、揃ったのである。

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