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第八八話 斉王、合従軍へ号令する

 楽毅率いる燕軍も宋との国境を侵し、奥深くへと進軍していく。

 同年 臨淄


 斉王はこの日、全ての準備を終えた。それは、宋攻めの為の準備であり、斉王が待ちに待った詔を、下す時が来たことを意味していた。

 斉王は詔が記された布を手に取り、意気揚々と、それを読みあげた。

「傍若無人な振る舞いを続ける宋王は、先祖の御霊を冒涜した。そして民を虐げ、今や宋は、天下の諸国からの救いを必要としている。余は、合従軍宗主国の主、東帝として、ここに詔を下す。宋の地と民を安んじ、先祖の霊を慰める為、宋へ侵攻し宋王を殺めよ!」

 宗主国の斉は、斉王が詔を下したその日に軍を発した。その動きに倣い、七雄の内、秦を除く五カ国の連合軍が、次々に軍を発した。


 燕軍を率いるのは、対秦合従軍にも参戦していた、燕将の(がく)()であった。彼は趙人(ちょうひと)だが、燕王の召集に応じて、趙から燕へ移った将軍であった。

「この戦いが成功すれば、我らは燕の本願を成就させるべく、斉へ攻め込むことができる。この戦は、兵に改めて戦を経験させる為のものだ。その勝利体験が、斉を攻め滅ぼす自信となり、矛を振るう腕に力を込めさせることになるのです」

 黒くて長い、繊細な艶のある髭を指で撫でながら、楽毅は語った。

 剣を腰に拵えた恵体とは相反して、彼からは粗暴さや高圧的な空気感は感じられず、逆に彼は、泉のように凛としていた。しかし内心はやっと行える実戦に高揚し、大義の為の戦を渇望する、熱き大炎が燃えあがっていた。

 将軍の騎劫(きごう)はそんな楽毅を見て、笑った。

 彼は燕人(えんひと)の将軍で楽毅より年上だったが、溢れんばかりの楽毅の才能を評価し、この戦での燕軍大将の座を、楽毅に譲っていた。

「今までは、そなたの才を天下に見せつける機会がなかった。だが私は、そなたの非凡な才を知っている。盤上の模擬戦におけるそなたの軍略や、日頃の兵への訓練での合理性、そして将と交流し慕われる人柄。更には王に的確な諫言をする王佐の才も含め、そなたは当に当代きっての英傑だ。私はそなたとともに、将として戦えることを、誇らしく思う」

「それは褒めすぎというもの。しかし、感謝申しあげます。期待に応えられるよう、賢明な戦をし、将兵に経験を積ませましょう」


 しばらく行軍した後、燕軍は、宋の国境付近の城を包囲する斉軍を発見した。復讐を逸り動揺する燕軍をなだめながら、楽毅は予定通りに、宋の奥深くへと進んでいった。

 威風堂々たる楽毅の下に、将兵の心は一つになった。

「目下の敵は斉に非ず。焦らず機を見て、踏まえるべき順序をしっかりと踏んでいけば、最後には必ず、斉という大国を、この世から消すことができるのです」

「その時まで、そなたとともに戦い抜く所存だ、楽毅よ」

「斉の人間に心を揺さぶられぬよう、気を抜かずに行きましょう」

 そういって楽毅は、自信に満ちた笑みを浮かべた。その笑みは、味方に安心感を与える、強者の気を漂わせていた。

騎劫(生年不詳〜没:前279年)……戦国時代の燕の将軍。楽毅に代わり、斉攻めを指揮した。

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