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第七八話 秦王、魏冄に本心を問う

 蘇秦にしてやられた魏冄は、咸陽に帰ってからも、腸が煮えくり返っていた。そんな彼の許を、秦王が突然来訪してくる。

 紀元前288年(昭襄王19年) 咸陽 丞相府


 丞相魏冄は咸陽に戻り、蘇秦との和平の会合を思い出し立腹していた。韓と魏に一部の領土を割譲することで、なんとか秦の滅亡を防いだ。得た領土と失った領土を比べれば、昨年の侵攻は十分に成功といえるものであった。しかし、若造にしてやられたという不満が、彼の中で積もっていった。

 すると突然、従者が魏冄の許へ駆け寄ってきて、秦王の来訪を伝えた。急いで着替(きか)えて迎え入れると、秦王は、笑顔で入ってきた。

「突然押しかけてすまぬな。そなたの此度の活躍を褒めようと思ったのだ」

「お褒めに預かる程ではありませぬが……どうぞこちらへ」

 茶の間へ案内し、二人は座布団の上に正座した。狭い部屋に遅れて運ばれてきた急須を手に取った魏冄は、温かい茶を秦王の湯呑みに注いだ。

「丞相。そなたは此度も、少ない領土で合従軍を退けた。まさかあの惨劇から十年も経たずに、再び合従軍に攻められようとはな」

「それだけ、我が軍の活躍が天下に轟いているということです」

「それも全ては、そなたが軍神白起を起用してくれたからだ」

「恐れ多い言葉にございます」

 秦王は、急須を手に取り、魏冄の湯呑みに注いだ。魏冄は拱手し、「感謝申しあげます」といった。妙に素直な秦王に、魏冄は疑念を抱いた。腹の中が読めず、困惑した。

「かように眉間にシワを寄せずともよいではないか、丞相よ。苦い茶が苦手になったのか?」

「いえ……」

「まぁよい。丞相よ、一つ聞かせてくれ。昨年の侵攻で、我が軍が数ヶ月間進撃を止めた理由について、そなたは、趙と斉が怪しい動きをしている為、背後を突かれないようにする為だと説明していた。そして、此度の合従軍が起こり、我が軍は適切に対応できた。諜報活動を司る丞相府の泠向は、本当に有能だな」

「やつは頭がいい男です。秦国の(ろく)()む臣下の中では、一、二を争う有能な男です」

 秦王はなん度も、湯呑みに口をつけ、茶を啜っていた。しかしどこか震えていて、緊張している様子であった。

「余はそなたに感謝しておる。即位を支え、合従軍を退け、軍神を推挙した。そなた以上に我が国に貢献した臣下はいまい」

「秦王様……」

 秦王は瞬き一つせず、魏冄を見詰めていた。

「腹を割って話そうではないか、叔父上。そなたは野心が強い。余の地位を奪うつもりか。正直に答えてくれ。合従し宋を攻めると蘇秦に信じ込まされたが、逆に合従軍に国土を狙われた。外交が簡単ではないことは分かっているが、余はもう……誰を信じればいいのか分からぬ。本心を答えてくれ」

「秦王様……私は王位を狙ってはおりませぬ」

真実(まこと)か? 軽々しくいわれては本心とは思えぬ。更に一つ聞くぞ叔父上よ。余を軽んじ、自身の得になるような密約など結んではいないか?」

 魏冄は、回答に窮した。密約はあった。同盟国の趙とのあいだに、賄賂を受け取り軍を動かさないようにするという、密約があった。

 目の前には、支えるべき王が弱った顔を浮かべ、助けを乞うている。

 魏冄は、自分でも欲が強いという自覚はあった。だがそれ以上に求めてはおらず、王位を狙うつもりなど、さらさらなかった。

 自分の中にも、蘇秦を出し抜く為には、王とともに手を取り合って国が一丸となる必要があると、感じていた。

 しかし密約があったことを話したところで、それを不問とされる保証もない。魏冄は、本心を話すべきか、迷った。

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