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第七五話 蘇秦、魏冄に承諾させる

 魏冄は合従軍に攻め込まれ、停戦を求め蘇秦と会合する。

 秦国丞相魏冄は、斉国丞相蘇秦と和平について会合を行う為、前線の垣邑へ赴いた。

 国尉白起と会い戦況を確認した時、彼はやはり、白起と司馬錯が名将であることを再確認した。各兵種を率いる将軍はそれぞれ適切な任命であり、その配置や、武具兵糧の振り分けも、申し分なかった。

 そしてなにより、白起率いる白起軍本軍が担当する燕国軍が、未だに動いていない現状から、この合従軍が本気で秦を攻めている訳ではないことを確信できた。

 白起もまず初めに、燕軍を率いる大将軍楽毅が、勝機を見つけても友軍へ援軍を出すこともせず傍観をしていることから、同じ考えをもっていた。だからこそ彼は副将に前線を任せ、垣邑で魏冄を待っていたのだ。確信を持った白起のその行動は、丞相魏冄に残っていた微かな不安を、完全に払拭した。


 司馬錯軍は、(にょう)()率いる楚軍に苦戦していた。

 韓の暴鳶は、淖歯が巧みに大軍を動かす横で姑息に少数の奇襲を繰り返し、司馬錯を翻弄した。

 しかしその淖歯の軍も、魏冄と蘇秦による和平の会合が行われることを知り、優勢でありながら軍を引いた。

 数の劣勢の中司馬錯は、なんとか戦線を守り抜く形となった。


 蘇秦は楽毅と数百の精兵を率いて、垣邑へ入城した。

 魏冄は白起率いる数十の護衛を引き連れ、待っていた。

 蘇秦を迎えて部屋に入り、二人は席に座った。

「魏冄殿、合従軍が秦を攻めて半月も経たずに会合を求めるとは、相当焦ったのでしょう」

 したり顔の蘇秦に、魏冄はなにもいえなかった。綺麗な顔をした三十手前の若造が、満面の笑みを浮かべている。その態度に、憤慨しそうになったが、魏冄は堪えた。

「まぁよいでしょう。これで魏冄殿も、思い知ったでしょう。……この合従軍が、大国を滅ぼせる程の大軍のまま、横に並んで戟を振るえる驚異であることが」

「えぇ、実感した。十分に……。かつての合従軍以上の壮観な景色だった。六国の厚みというのは、こういうものなのだな」

「それではもう、合従の邪魔をするような真似は、控えて頂けますね?」

 勝利を確信した微笑みを浮かべる蘇秦に対し、魏冄の目は泳いでいた。

 白起は初めて、覇気がない魏冄を見た。初めて、彼が小さく見えた。

 魏冄は黙っていた。

 蘇秦は、畳み掛ける。

「穣候は、斉が滅べば次に狙われるのは秦であると考え、合従軍が成立するのを邪魔するように、軍神や大将軍を連れて魏や韓を攻めた。しかし今となっては、選択肢は二つに一つ。斉を滅ぼす為にともに戦うか、今すぐ六国に滅ぼされるか。お好きな方を、お選びください」

 白起は、六国が攻めてきても、撃退できると考えていた。なにより、饒舌に話す華奢の男の横に立つ、楽毅と戦ってみたいと思った。見事な布陣を敷くこの男と、干戈を交えたいと強く思った。

 だが魏冄は、「ともに戦いましょう」といった。白起は落胆し、政とはよく分からないものだと、つくづく感じた。

淖歯(生年不詳〜没:前283年)……戦国時代の楚の将軍。楚の頃襄王に仕えた。

斉王を殺すも、その後斉の王孫賈によって殺された。


楽毅(生没年不詳)……戦国時代の燕の将軍。昌国君とも呼ばれる。

燕の昭王に仕え、斉を滅亡寸前まで追い込んだ。

後の三国時代に諸葛亮が、自身を評価する例えとして楽毅の名を挙げた話も有名。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽毅、キター!!!! [一言] 楽毅、春秋戦国時代でも指折りの名将は、白起と並びますね。楽毅の落とした城は70余と記されているくらいなので。中でも、楽毅が来たら無血開城になるくらいの影響を…
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