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第七一話 白起、美女を寝所に招く

 秦王からの贈り物である美女を無下にはできぬと、白起は、美女を寝所に招く。

 垣邑 白起


 咸陽の秦王から届け物があると聞き、白起は丁重にそれを受け取ろうとした。しかしその届け物とは、数人の美女であり、白起は困惑した。

 白起は今まで、金や季節の食べ物を貰ったことはあった。王とは人までも贈ってくるものなのかと、理解に苦しんでいた。しかし断る訳にもいかず受け取った。

 白起は、すぐに司馬錯を呼んだ。子や孫がいる司馬錯であれば、女性の扱いを熟知していると考えたのだ。

「よいですかな白起殿、これはただの美女に非ず、秦王様からの贈りものです。無下にするのは、いわずもがな下策です。そればかりか、他の女子(おなご)と同じように扱うだけでも、秦王様の怒りを買いかねませんぞ」

「普通に扱うというのもまた……よく分からぬのですが……。どのようしたら良いでしょうか」

「寝所に入れるしかありますまい。それは無防備な場所まで入れられる程、秦王様を信用しているという意味になります」

「戦に出られぬ鬱憤を……こんな方法で晴らさねばならぬとは……」


 夜、白起は寝所に一人の美女を招いた。女性と交わるのが嫌いな訳ではない。男として、そういう趣味は当然あるし、秦王が贈って来た女性は良い見た目をしていた。

 だが、今はそんな気分ではなかった。戦をしたいと、思っていた。

 政争により出撃を止められ、何度も好機を逃しては、今後の兵や武具兵糧の損害を考え、苛立ちを覚えていた。次の攻め方を練りたい、兵の調練の内容を見直したい、将軍らの士気を高める為幕舎を周りたい。そういう気持ちを殺して、寝所で美女を待った。

 しばらくすると、美女が部屋の扉を開けて入ってきた。昼間は気にも止めなかったが、どこか恥じらいながら微笑むその艶めかしさには、目を奪われた。

 少し小さな絹の服は、美女がかがむと体に張り付き、その豊満な胸やお尻の形が顕になる。少しずつ、絹の服をはだけさせたいという気持ちが、ふつふつと大きくなっていくのを感じながら、彼は美女を寝台へと招いた。

 美女は、秦の言葉で白起を高揚させようとする。しかし、長らく女性の口から秦の言葉を聞くことはなかった。戦地で城に入ったときは、街の中にいる女性と会うことはあっても、いずれも似ているだけで異国の言葉であった。

 美女の熱い吐息とともに放たれる秦の言葉は、高揚する心を冷めさせた。その言葉は辛い日々や、兵の声、復讐を誓い耐え忍んだ義母との記憶を想起させた。

 女性の(あか)く火照った顔が近づくが、白起はそれを制止した。

 白起は上体を起こして、ため息を吐いた。

「心が昂れば……血の匂いがする。ずっとそうだ。私は……ずっとあの日に立ち止まったままなのだ。復讐を誓い戦を続けることになった、惨劇が起こったあの日に……」

 感傷に浸る白起を見て、美女は呆れたようだった。シラケてしまったが、白起の体に手を回し半裸のまま寄りかかった。苦悩する白起を癒そうと、少しだけ、そうしていた。

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