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第六八話 趙の干渉

 魏、韓の中心部を攻める秦。その暴挙に危機感を抱いた東周の姫傑は、秦の同盟国である趙に、両国の間に入って停戦を取り仕切るよう説得する。

 紀元前289年(昭襄王18年)


 前線に駐屯していた、白起率いる巴蜀の兵と司馬錯率いる漢中郡の兵は、年が明け春の収穫を終えた後、洛陽周辺へ侵攻を再開した。

 司馬錯は主に河雍を攻略し、白起は蒲阪、皮氏城を攻略した。二人は協力して数十の城を陥し続けていた。


 国境を侵略され続けた魏王は、北に位置する趙へ助けを求めた。

 また、伊闕の戦いでともに血を流した東周の姫傑も、魏を助ける為に、趙王へ使者を出した。邯鄲宮で、使者は趙王へ説いた。

「趙の為に、提言いたします。趙は秦と魏のどちらにも手を貸さず、また傷ついた両者を襲って漁夫の利を得るようなこともしてはなりません。片方に手を貸せば、戦争の因果から逃れられず傷を負うことになり、また漁夫の利を得れば、それを羨む国に疲れた所を襲われます」

「では我々はいかがすべきと、姫傑殿はお考えなのだ。申してみよ」

「申し上げます。趙は秦との同盟国という立場を活用し、秦に、魏への侵略を止めるように働きかけます。秦が魏を滅ぼせば、蘇秦が考える大計を成せなくなります」

「あぁ……それは確かにそうだな。秦は韓と魏を滅ぼしかねず、もし両国が滅ぶことがあれば、趙もいつかは斉や楚、北方の蛮族に滅ぼされかねん。明日は我が身だ。蘇秦がいう大計……それ即ち山東の六国が参加する対秦合従軍。秦はやりすぎたのだ。その暴虐な侵略を止める為にも、今魏が滅ぼされるのは見過ごせぬな」

「趙が停戦の仲介役となり魏を助ければ、魏は趙に恩を感じます。かつては隆盛を誇った魏が敬うとあればば、趙、魏、韓の中原諸国の中で、趙は周に並ぶ威厳を持つようになることでしょう」

 趙王は使者の意見を容れて、秦へ停戦を求めるように働きかけた。


 数日後、秦の丞相魏冄は、趙王からの使者と会合を執り行った。丞相魏冄は、趙王からの賄賂を受け取り、停戦要求を飲んだ。


 数日後、前線の秦軍は優勢なまま攻撃を停止した。それまでに白起や司馬錯が率いる秦軍が陥した城は、六一城にも上っていた。

 白起や司馬錯らは、宮廷内で行われる政によって、軍が停止したことを察していた。だが、五百主の蒙驁や百将の摎はおろか、曲の張唐や胡傷までも、その意図に気づくことはできなかった。

「摎、どうして軍が撃って出ないのか、分かるか」

「いいや分からない。地図を見るに、こちらに大打撃を与えかねない程の伏兵が、隠れられる場所はない。つまり……こんなにも長いあいだ軍が動かないことは、戦略とは異なる理由がある気がする」

「私もそう思うのだ。初めは白起将軍らの神算によって奇妙なほどじっとしているのだと思っていたが、軍が城に籠ってから早数ヶ月間。兵は怠けて体が鈍りだしている。あぁ……もどかしい……!」

河雍……現在の中華人民共和国河南省焦作市孟州市。


蒲阪……現在の中華人民共和国山西省運城市永済市。


皮氏……現在の中華人民共和国山西省運城市河津市。

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