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第六十話 白起、李冰に会う

 李冰を成都へ連れていこうとする白起。しかし李冰はそれを拒み、二人だけで話し合うことになる。

「李冰殿。我々がここへ来た理由は、既にご存知でしょう。単刀直入に申し上げる。我々と成都までご同道願う」

 その問いに李冰は答えなかった。迷っているのか、断り方を探しているのか分からない。話を聞いていないのではないか、とさえ思えてくる。

 沈黙のあと、長老は杖で李冰を叩きながら、返事を急かした。

「早く、行くと返事をせぬか!」

 それでも李冰は返事をせず、じっと白起を見ていた。長老は怯えた顔でなん度も白起を見ては、「ほら、早くいわぬか」と急かし続けた。

 白起は察した。長老は、いつか自分が秦兵に命じて強硬手段に出ると思っていて、その結果この村が消滅する可能性もあると考えているのだ。

 白起は立ち上がり、李冰に歩み寄った。そして拱手をし、笑顔を見せた。

「少し二人で話しませぬか。長老はなにか勘違いをなさっているようだ」

「いいですよ」


 それから二人は、村の外れにある大きな河を眺めながら、歩いた。その付近は農地が広がっていたが、陸地との高低差があり、氾濫で農地が潰れる心配はなさそうであった。

「この地形は天の恵みですか。水路となるべくしてなった河に思えます」

「元はここら一帯をなん度も飲み込んだ、脅威でした。しかしこの谷の民は試行錯誤し、河を御する術を身に付けたのです。私はその術を多く学び、灌漑に精を出してきました」

「それでも蜀は天然の要害。天の怒りともいえる災害が相次ぎ、少し離れた人里でも、毎年大勢が死傷している」

「故に私は離れたくないのです。私にとって、この谷は故郷であり、大切な人が住む場所です。これまでの人生の全てが詰まった場所なのです。もっとこの地を安全にする為、灌漑に精を出したいのです。あなた方秦の人や過去の蜀王は、ここを蜀と一括りにするが、私にとって故郷はこの谷であり、他の蜀の民など他人なのです」

 李冰の言葉に、今まではなかった抑揚がついた。感情が籠っており、これが彼の心の内なのだと、白起は感じた。

「蜀王はこの地で税をむしり取っては、成都や他の蜀の民の為に使う。私らに拒否はできぬ。私はそれを横暴に感じていた。秦は蜀を飲み込み、その濁流はこの村を地図から消し去った。税は取られず徴兵もなかったのに、あなた方はここを見つけてしまったのです。私は、やりきれない。また搾取されるだけなのですからね」

「この谷はこの谷だけで、生活や文化が成り立っている。外からの干渉ほど、迷惑なものはないのだな」

 李冰のいっていることはもっともだと、そう感じた。どう説得すれば良いか思案するあいだ、沈黙が訪れた。

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