表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/194

第六話 秦国の宝

 山中で伏兵に襲われた李雲らを助けるため、将軍任鄙は自ら軍を率いて進軍する。

 伏兵に襲われる起らは、盾で矢を防ぎながらゆっくりと下山するしかなかった。しかし、入り組んだ道を何度も迂回し山奥に入っていたため、下山途中には幾つもの高い崖があり、数多の板楯ばんじゅん族によって頭上から矢を射掛けられた。

「盾を重ねろ!」

 百将の李雲はこの期に及んでも諦めてはいなかった。ほとんどただの農民である新兵たちは、半ベソをかいており、その目は恐怖に怯えていた。

「おい新兵、手が震えているぞ! しっかり構えねば射抜かれるぞ貴様!」

 李雲は横にいた、名も知らぬ新兵に激を飛ばした。公孫亮は「すみません……!」と震えた声で叫んだ。そのやり取りを見た起は、彼が死の恐怖に囚われているのだと感じた。やはり彼は、自分のように徴兵を受けるべきではなかった──。


 本陣がある丘を下りた任鄙は、逃げる敵を壊滅させた上で、山中の手前で停止していた右翼の数千を率いて、山自体を右側から迂回していた。

「左翼は壊滅したが、本隊の大部分は助けられた。それと合流し遠くから山中に入れば、連中を崖から突き落としてやれる!」

「任鄙よ、肩の力を抜け」

 老将の夏育は、鐙や鞍もない馬を可能な限りの速さで駆けさせながら、血走った目をしながら横を駆ける任鄙をなだめた。

「そなたは、復讐に気を取られ、やや冷静さを欠いているように見えるぞ」

「そんなことはありません。私はただ、勇猛果敢に山中に飛びこんだ勇者たちを、助けてやりたいのです。彼らは勇敢です。彼らこそ、失ってはいけない名もなき秦国の宝なのです!」

 任鄙は五年前、村を襲われ行く場所をなくした被災者たちを匿い、雍城に入れた。その後出兵するも無駄に兵を失っただけで、村を取り返すこともできなかった。

 彼は己が敗軍の将として汚名を着せられたことよりも、自分が鍛えあげた優秀な兵を失い、反撃の機会さえ失ったことを嘆いていた。

「我が秦国は、商鞅による改革により、徴兵ですべての男子を鍛えることで、もはや弱小国家ではなくなりました。今や、盛況を誇る隣国の魏さえ跳ね返す強国です。その土台は名もなき勇者であり、そういった勇者たちとともに戦で敵を退けることこそ、秦人しんひとの生きる誇りなのです!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ