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第五一話 伊闕の戦い 五

 尽く敵軍を粉砕する秦軍。将軍白起は最後の仕上げとして、洛陽の城門に総攻撃を加える。

 開戦から四十日が経過した頃、既に洛陽の魏軍は壊滅状態となっていた。また魏本国も将軍向寿が蹂躙し、敵兵五万を破ったという情報が、新城の将軍白起の許にも届けられた。

「向寿将軍が軍を率いているとは予想外だった。彼は秦王様の側近中の側近で、魏冄丞相曰く……此度の戦で我らが大敗を喫することを望む政敵であるといっていたのだが。そなたはどう思う」

 白起の問いに、従者は応えた。

「思いますに、魏攻めと洛陽攻めは連動してはいるものの、直接的に互いの戦況に影響を与えることにはなりません。ゆえに、魏冄丞相の大計であるとは思いつつも、魏攻めで向寿将軍が功を立て、それでいて洛陽では将軍が敗戦するという願いは両立できるとお考えになったのでしょう」

「なるほどな。戦や商売など、定石があるものなら私は得意だ。しかし……権謀術数で人を陥れる(まつりごと)というのは、どうも苦手だ。そなたは頭が回るようだが、どういう経歴で私の従者となったのだ」

「元は武具を売る商売人でしたが、金がなくなり奴隷に身を落とし、下僕として咸陽にいました。そこを魏冄様に拾われ、此度この戦で将軍をお支えするように仰せつかった次第です」

「名はなんと申すのだ」

(こつ)と申します」

「齕よ、この戦の戦勝報告はそなたがせよ。これから韓軍の増援が、我々の背後を突きにくる。挟撃し一網打尽にしてやるのだ」


 予め、韓軍が迫っていることを察知していた将軍白起は、新安を占領する軍を除いたすべての任鄙軍を、新城に戻していた。そして関中で待機させていた秦軍も呼び戻し、のこのこと現れた韓軍を挟撃し、壊滅させた。

 洛陽の、暴鳶と姫傑率いる韓、東周軍は、手薄な新城北門を攻める為に崖の西側より南下していくも、援軍は既に壊滅していた。新城によって連絡網が途切れていたことにより、連合軍同士は上手く連携が取れなかったのである。

 攻撃が後手に回った暴鳶、姫傑率いる韓、東周軍は、白起本隊の攻撃により壊滅し、洛陽へと撤退していった。

 将軍白起はこの勝機を逃さず、命令を下した。

「全軍、我らは既に多くの敵を粉砕した。残るは洛陽城内にいる少数の兵のみだ! 皆殺しにしろ!」

 新城に守備兵一万を残し、将軍白起は自ら八万を率いて洛陽東側を攻めた。副将の将軍任鄙は新安占領軍と合流し三万で西門を攻めた。



 洛陽 東周陣営


「終わりだ! このまま我が周は終わるのだ!」

「落ち着いてください父王! まだ終わりはしません!」

「しかし打つ手などないではないか姫傑よ!」

「打つ手ならまだあります……!」

「どんな手だ、早う申せ!」

「我が周室へ忠誠を誓う勇将で、此度我らの総帥となり、犠牲を厭わずに懸命にも先鋒と殿を務めてくれた魏将公孫犀武を……生贄とし、和睦を結ぶのです!」


 その日の夜、なんとか秦軍の猛攻を防ぎきった東周軍は、姫傑の呼びかけで作戦会議という名の酒宴を開いた。

 そこで酒に酔い潰れた公孫犀武を、姫傑は縄で縛り上げ、そして翌朝に白起へと身柄を渡した。

 白起は伊闕付近の天幕で行われる和睦の為の会談で、強気に、姫傑へ要求した。

「九鼎を頂きたい。あれは、我が先王の遺物である」

「な……なんですと。九鼎は周の宝。あれはお渡しできぬ」

「お好きな方をお選びください。九鼎か、洛陽の民の命と九鼎の両方か」

 姫傑は民の命を守る為、九鼎を秦へ明け渡した。

 重い九鼎を数人がかりで馬車に乗せ、白起は、兵を引きあげていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 白起、九鼎を手に入れる。 [一言] 九鼎は、夏、殷、周の3代に渡る王朝が継承してきた権威の象徴なので、これを有するかで、天に徳がありと認められる。周王朝は、九鼎を失った今、正当性は無きも同…
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