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第五十話 伊闕の戦い 四

 白起は伊闕での戦いを優位に進める為、秦軍別働隊に魏を急襲させる。

 秦 咸陽


 丞相魏冄は咸陽にて数日前、伊闕の崖から洛陽の城門を、弩で攻撃しているという報を受け取った。

 その日の朝議で、彼は秦王へ、魏攻めの許可を乞うた。

 秦王は「大計があるのだろう。よかろう」といい、向寿に五万の兵を預け、魏へ向かわせた。

 秦はこの時既に、総数十四万の大軍を動員しており、国力はギリギリの所であった。


 数日後、向寿率いる五万の秦軍は魏を奇襲した。

 魏は国内に残る五万の兵を動員せざるを得なくなるが、秦のあまりに予想外且つ素早い攻撃に、対応できなかった。他国との同盟も結べず、魏は数日の内に巨城を二つ失った。



 新城 秦陣営


 白起は秦軍が魏を急襲したことを知るよりも前に、次の手を打つために、準備を始めていた。

「従者よ、今日はこの伊闕で戦が始まってから、幾日が経過した」

「三十日でございます」

「手筈通りなら、秦軍が魏を攻めている。そちらの戦線は滞りなく進むだろう。間もなく後方から韓の兵が来る。あとはそれを関中に戻したと見せかけた兵と、新城の兵で、挟撃し粉砕するのだ。それまでに……目の前の伊闕で争う敵兵十四万に打撃を与え、洛陽まで下がらせねばならん」

 迎撃しているのは、新城の守備軍一万を除く、全軍三万。高所や隘路という地の利を活かしても、簡単に撃退できる程の戦力差ではなかった。

 将軍白起は決断した。

「守備兵の内八千の精鋭を、洛陽付近にある新安と、小城二つの計三つの城へ向かわせろ。攻略するのだ。これを失えば、敵軍は洛陽を包囲された際に、掎角の勢を作ることができなくなる。つまり、包囲をされれば一巻の終わりとなる為、敵兵の幾らかは洛陽に戻るはずだ。敵の兵力が少なくなった所を、一気に撃滅する!」

 白起の命令で、別働隊は小城を攻め落とした。別働隊に加わっていた摎は、城の西側に小城があることを知らなかった。

「つまり、私が考えた攻撃策は不適当だったという訳か。情報を得て機を見計らう。『彼を知り己を知れば百戦危うからず』とは……真理であるな」


 別働隊は城を占領し、城門を固く閉ざした。

 前線を離れた東周、魏、韓連合軍は半分を洛陽に戻した。

 最も撤退が遅れた魏軍を、任鄙軍は追撃した。魏兵は背後を襲われ上手く対応できずに斬られ、そして射られ、崖から突き落とされ殺されていった。

 一方的な殺戮の結果、魏兵の大半は死傷することとなった。

新安……現在の中華人民共和国河南省洛陽市に位置する県。

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