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第五話 板楯族の反乱には

 異民族の襲撃の背景にいる黒幕の存在を、将軍夏育は感じ取っていた。将軍任鄙は追撃を止めよとするも間に合わず、起らの部隊は山中に入る。

 起と亮を含む将軍任鄙の本隊は、板楯族に猛攻を加えていた。戦いの趨勢はすでに決したように思えたが、西方の山中まで板楯族が引いていく姿を見て、将軍任鄙は追撃を止めるよう指示を出した。

「伏兵だ。これは奴らの罠だ」

「報告! 左翼軍、敵を追撃し山中に入りました!」

「左翼は甚大な被害を出すことになるか……」

 兵の損害を頭で計算する任鄙に、副将として彼を支えていた夏育が言葉をかけた。彼は歴戦の老将であり、今度の戦は都尉となった任鄙の力量を図るため、彼のそばにいた。

「妙とは思わんか任鄙よ。奴らは虎をも易々と殺す神兵とは言えど、所詮は蛮族であり、戦術など理解しているはずがない。だが初陣の者も多い本隊が、奴らを押し、山中まで退けている。これは、そなたが睨むように、正に伏兵がいる位置まで誘っているような動きだ」

「もしや敵は……板楯ではない……?」

「儂もそう思うのだ。板楯を矢面に立て、異民族による偶発的な侵略に見せかけたもののように見える」

「それをして得をするのは……」

「義渠県による反乱であろうな」

「五年前、白家村をはじめとし幾つもの村が襲われ、それらの地を奪われた出来事がありましたな。私はそれを不思議に思っておりました。普通、蛮族というのは人や食べ物、財物を奪えば、その地を去るものです。しかし奴らは廃墟と化した村に住みついている」

「司馬錯が滅ぼした義渠国は今、義渠県として秦国の領地に組み込まれている。声を大きくしては言えぬが、未亡人となった亡き恵文王様の奥方様と親しくしているというのも、宮中では有名な話だ」

「それは誠ですか……! 義渠の連中は秦国の宮中にも手を伸ばしているとは……。やつらは秦国の領地や、戦で得た戦利品を分けることで、精強な板楯を飼いならしているのか」

「今はまだ想像の域を出ぬが……秦へ牙を剥こうとしているように思える……!」


 部隊長である百将、李雲を中心にし、部隊は前へ前へと進んでいた。将軍の停止命令を伝える伝令など、とても追いつかなかった。

「我につづけ! 一人残らず皆殺しにするのだ!」

「百将につづくぞ亮!」

「もちろんだ起よ!」

 勇猛な本隊の数千人は追撃で大勢の板楯族を討った。しかし山中に入ると、軽い身のこなしで崖を登っていく板楯族とのあいだに、徐々に距離ができだした。

「こちらも迂回はできぬのか……ここらは崖に囲まれているが、敵は練度の高い兵士ではないゆえ、伏兵の心配は……」

 その時であった。周囲の崖より弓や吹き矢を浴びせられた。伏兵だ、と叫ぶ声があちらこちらから聞こえた。

夏育(生没年不詳)……戦国時代、秦王の将軍。衛出身で、任鄙や鳥獲、孟賁と並び、武王の時代に取り立てられた。

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