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第四三話 白起、新城を攻める

 秦王より韓攻めを命じられた将軍白起。連戦して、大都市の新城を包囲するに至る。

 咸陽 白起の屋敷


 王からの使者は、目の前で膝を突き拱手をする白起に、王からの詔を伝えた。

「丞相の副将として韓を攻め、秦の恨みを晴らせ」

「謹んで、お受け致します」 

 白起は床に手を突いて一礼をし、詔が記された布を手に取った。


 使者が宮殿へ帰るのを見送ったあと、白起は屋敷に戻り、座り込んだ。未だ封地もなく、爵位や宝物を下賜されたに過ぎない白起は、慣れぬ咸陽での生活を送っていた。

「将軍となってから、雑事や丞相のお仲間との交流に追われ、郿県へ帰れていない。義両親や恬さんたちは元気であろうか。雍の友人や公孫氏の親類たちは、皆元気であろうか」

「将軍、荷造りを始めて参ります」

 溜息混じりに独り言をいう白起に、従者の女はいった。白起は、「ありがとう」とだけ告げ、部屋を出た。


 白起は魏冄の副将として出撃し、韓との国境を越えた。韓は魏冄の襲来に際して、対応が遅れた。函谷関での傷跡が癒えていない秦の攻撃を予期しておらず、韓王は誤報であると願い、迎撃の詔を下さなかったのである。

「城を攻めよ! 陥すのだ!」

 魏冄と白起は各県を攻撃した。各地の県城は連携が取れぬまま、一つ、また一つと陥落していった。そして魏冄、白起は、遂に地方の最大都市である新城を包囲するに至った。

「白起よ、そなたにこの城を任せてもよいか。そなたは独力で数十の城を陥しここまで北上してきた。この新城は、大都市だ。そなたの力量を、見てみたい」

「御意」

「この城を守るのはおよそ四万……。通常、城攻めは三倍の兵力を有するが、兵はなん人必要だ?」

「一万で十分です」

「よかろう……!」



 同年 新城の戦い


 白起は韓の新城を攻めた。巨城といえど、孤立無援の新城の攻略は不可能ではなかった。

「幾つもの城を陥した事実は敵の肝を潰し、味方の士気を高めている。また韓王は愚かにも都に篭もり、救援の兵を向けぬ。こちらの兵は練度も高く、武具兵糧は十分で、短期決戦も長期包囲も可能。つまり……戦の主導権は我々が握っているばかりか、既に勝敗は決っしているも同然だ」

 白起は焦らず、基本の方針で攻撃した。

「矢を射掛けよ! 城壁の側で待機する敵兵を射殺せ!」

 あらかた矢を射掛け終えると、白起は叫んだ。

「敵は盾を使い果たした。投石しろ! それから火を着けた油が入った瓶を投擲せよ!」

 城内から火が上がる。黒煙が上り、城壁は黒く焼け傷がついた頃、白起は命令を下した。

「梯子をかけ、衝車を門にぶつけろ。乗り込むのだ……!」

 定石を順当になぞる白起は、これで勝機を掴んだと感じた。通常、大きな城の主となる将軍は、優れた器量を持っている。そのため、これらの攻撃を受けても城内はまとまっており、梯子や衝車での攻撃を妨害してくるものだ。

 だが既に士気が極限まで下がりきっている新城は、すでに抵抗の術を失っていた。


 白起の軍は大した妨害を受けず城内になだれ込み、大した武芸も持たぬ烏合の衆を殺し、褒美として略奪を楽しんだ。

「奇策を弄する必要すらなく、有益な実戦場として訓練の成果を試すことができた。感謝申しあげる、名もなき韓の将兵よ」

新城……現在の中華人民共和国河南省洛陽市に位置する伊川県。

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