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第四一話 将軍白起

 魏冄によって牢獄から出された公孫起は、彼の屋敷に招かれる。魏冄は公孫起の為、王へあることを上奏すると約束する。

「立つのだ公孫起よ。そなたこそ、我が秦の宝ぞ! 論功行賞にそなたは参加できなかったが、私が秦王へ上申しよう。そなたは数千の兵を適切に用いることができる将の器だ。そなたの位を左庶長とし、将軍にしていただくのだ!」

 左庶長とは、秦における貴族の位であり、農民出身の彼が就くことはできない身分であった。自分が農民出身であることを伝えると、魏冄は驚いた。

「そなたは豪商の公孫氏であろう?」

「養子にございます。私の生まれは……今はなき白家村の農民でございます」

 白家村の名を聞いた魏冄は、慟哭していた。魏冄は公孫起を指さし、「生き残りがいたのか」と呟いた。

「あの村は、義渠県が裏で糸を引く異民族の内乱により、不当に奪われた地域にあった。私が秦へ来た折り、秦の情勢を学んだのだ。蛮族のやり方で、無惨にも跡形なく消された村々があったのだと……!」

 魏冄は義憤に駆られ、壁を殴りつけた。そして公孫起の目を見て、いった。

「そなたに義渠県令、義渠涼を殺させてやる。ゆえに、私に従え。私がそなたに復讐の機会を与えてやろう」

「真でございますか!」

「真だ。そなたは将軍として戦働きをし、秦王の信頼を勝ち取るのだ。そしていつか義渠県の尻尾を掴んだとき、そなたが故郷の、いや秦国の、恨みを晴らすのだ」

 公孫起の中で、覚悟が決まった。将軍となり、復讐を果たすまで、戦で功績を立てる。進退がここに極まった。


 魏冄は公孫起を牢から出して、咸陽内にある自身の屋敷に招いた。そして服や酒、宝物を与えた。

「今はこんなものしか与えられないが、いつかそなたは、欲しいものはなんでも手に入るようになるであろう。この国はなによりも、戦功が出世に関わるのだ。そうだ、公孫起よ」

「なんでございましょうか、大将軍」

「そなたは今齢二十八だな。故郷を失った時はまだ幼く、かの地については、あまり覚えがないのではないか?」

「左様でございます。私は……亭長の名が桂であったこと以外、村についてはなにも覚えていません」

「そうか……亭長の名は白桂だ。村は代々、白という姓の亭長が治めていたと記録にあった」

「ありがとうございます……故郷のことを知れて……生きていた甲斐がありました……!」

 公孫起は、涙ながらに礼を伝えた。その姿を見た魏冄は、公孫起の側へ行き、肩に手を置いて、いった。

「そなたは戦功を立て封地を賜ったのち、そこで白家村を再興するのだ。私は、秦王様へ、さらにもう一つ上奏することとする」


 不敵な笑みを浮かべ、囁くように話す魏冄。公孫起は拱手をしながら、「なんと上奏なさるのですか」と尋ねた。

「そなたに姓を与えるように上奏するのだ。公孫は氏であり、姓ではない。姓と氏がある場合、氏と(いみな)を続けて名乗るのが習わしだ。私は姓を羋、氏を魏、諱を冄という。ゆえに魏冄と名乗っている。

 だがそなたは、故郷の復興と、卑劣な義渠への復讐を願い、氏の公孫ではなく、姓を名乗るのだ。その姓は、その決意を表すのに相応しいものになるだろう」

「して……その姓とはどんなものなのでしょうか」

 義冄は立ち上がり、それに合わせて公孫起も立ちあがった。

「公孫起よ、そなたはこれより、こう名乗るがよい。左庶長、将軍白起と……!」

白起(生年不明〜前257年11月)……戦国時代末期の秦の武将。別名公孫起。郿県の人。

秦の領土拡大に大きく貢献し、王翦、廉頗、李牧と並ぶ戦国4大名将の1人に数えられる。

また長平の戦いにて40万人の敵兵を破り、捕虜200余名を除き、生き埋めにしたことで知られる。


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