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第四話 秦兵として

 異民族討伐の戦いが始まり、起や公孫亮は、秦兵として戦場を駆ける。

「いつまで黙っておるのだ、起よ」

「すまない……少し思案しておった」

 公孫亮は、すぐに嘘だと気づいた。だが起が気を利かせて嘘をついたのだろうとも思い、「左様か」といって、自分も黙った。

 雍を出た男どもが、西へ西へと向かい、道を歩いていた。目的地の名も知らず、ただ歩いていた。


 しばらくすると、甲冑を身につけた兵士らが、やけに慌ただしく、列を前後に駆けだしていた。

 どうやら、そろそろ目的地のようだと公孫亮は思いながら、ふと起を見た。すると起は顎に手を当てなにやら思案していた。

「なにを考えておるのだ」

「さっきの話のつづきだ。恵文王様は司馬錯将軍とともに巴蜀はしょくの地を攻略し、合従軍がっしょうぐんを退けた。そして薨去なされたのち、そのお子である現王様が即位された。現王様は勇士を好まれ、鳥獲うかく将軍や孟賁もうほん将軍を取り立てられ、我が秦は、更なる躍進の時を迎えているのだ」

「ようやくいつもの調子に戻ったようで、なによりだ」

 公孫亮は、起の顔がいつものような頼もしい顔になっており、安堵から笑った。

「この軍を率いるは雍の都尉、任鄙じんひ将軍だ。司馬錯将軍の副将として、義渠国を滅ぼした名将であり、そして……」

「そして……なんだ?」

「此度の侵略を行ったのは、板楯ばんじゅんだ。五年前、秦の領土を奪い、住民を虐殺したのち、任鄙将軍の討伐軍さえも跳ね返した。つまりこの戦は私のみならず、任鄙将軍の……いや、秦国による復讐なのだ!」

 雍城都尉ようじょうとい、将軍任鄙率いる秦軍七千は、雍城以西の地を襲う異民族討伐のため、野営を開始した。

 そして数日後、板楯族の攻撃に端を発し、戦いの火蓋が切っておろされた。

 目の前を走る上官に遅れを取らぬように、起らは吶喊とっかんした。

 粗末な漢服の兵士らは、げきを振るって、武装した板楯族の体に突き刺していく。

 あのときと同じように一心不乱になりながら、ただ目の前の板楯族を一人、また一人と倒していく。どれだけ訓練を積んでも、戦っているうちの気持ちは変わらないものだと、起は思った。

 だが、相手が振りかぶった武器を上手くかわし、効率よく反撃するということが、上手くなっていると感じた。

 秦国兵は戦局を有利に進めているようだ。板楯族は背を向けて走っていき、側面から迫る秦国の兵が放つ矢に刺さり、動けなくなったところを起や公孫亮らの戟によってとどめを刺されていった。

 追撃となり少し余裕が生まれた起は、後方の丘に目をやった。すると砂塵が舞う自分たちの位置を、その丘から眺める人がいた。それは服装と旗からして、将軍任鄙のようだ。

「砂塵が舞う戦場を、少し高い場所から眺めて戦況を把握してるのか。戦場で死線を潜りぬけた叩きあげでないと、なにも見えず戦況の把握などできぬな……」

「なにをブツブツと言ってやがる。叫んで敵を追いかけるのだ起よ!」

「もちろんだ亮。二度と秦国に入って来られぬように、根絶やしにしてくれるわ!」

恵文王(生:紀元前356年〜没:紀元前311年)……戦国時代の秦の26代君主にして初代王。姓はえい、諱は。司馬錯に命じ巴蜀を支配した。また商鞅を憎み処刑しながらも、その優れた法を継続して施行、秦を強国にしたことで名君と評される。


武王(生:紀元前329年〜没:前307年8月)……戦国時代の秦の第27代君主。第2代の王。姓はえい、諱はとう

紀元前307年8月に洛陽で力比べのため鼎を持ち上げた際、脛骨を折り出血多量で薨去。


任鄙(生:不明〜没:紀元前288年)……戦国時代の秦の武将。武王の時期に孟賁や烏獲・夏育とともに高官に取り立てられ、紀元前294年に漢中郡の郡守となった。


烏獲(生没年不詳)……戦国時代の秦の将軍。武王に仕え、鼎を持ち上げた際に目から出血した。


孟賁(生:不明〜没:紀元前307年)……戦国時代の斉の出身で秦の武将。武王に仕えた。武王と力比べのために洛陽で鼎を持ち上げたことがキッカケで死去。武王を死に追いやったとして、一族皆殺しに処された。

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― 新着の感想 ―
[一言]  春秋戦国時代は僕の射程範囲外でありましたが、興味深い。  ただ、秦始皇帝や徐福の物語はある程度読んでいました。  (いつかキングダムも読んでみたいとは思っています)
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