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第三八話 函谷関の戦い 九

 戦死した公孫奭の旗を掲げ、公孫起は武関を目指す。


 一方その頃、板楯族の圧倒的な攻撃を前に晒された隴関は、陥落寸前の危機に陥る。

 騎馬部隊、馳車部隊を指揮していた将軍公孫奭の戦死後、すぐさま公孫起は、彼の旗を掲げた。それは、黄色い布に黒字で『公孫』と書かれた将旗である。

「公孫起隊! どよめく友軍をまとめて武関へ行く! これより、武関へ入るまで私の名を呼ぶことを禁ずる! これより、私ではなくこの将旗を指し、公孫将軍と呼ぶのだ!」

 その大音声は、今は亡き李雲の姿を連想させた。公孫起の部下は、李雲の部隊から編入された同郷の兵も多かったのである。


 沸き立った公孫起隊の百余名は、旗を掲げながら、「公孫将軍につづけ」と口々に叫んだ。そして右往左往する騎馬兵のあいだを通り、押し寄せる匡章軍を斬りながら、武関を目指した。

 情報が錯綜し状況が掴めていなかった騎馬兵は、将軍が生きていると錯覚した。そして、公孫起が掲げる『公孫』の将旗につづき、無事に武関へ入ることができた。

 武具の補給を終えた公孫起率いる部隊は、高所より匡章軍目掛け矢を射掛けた。盾を構える間もなく、匡章軍は損害が増えた。そして、敗北を悟った匡章は我先にと戦線を離脱し、それを追撃した百将張唐、百将胡傷率いる部隊は、多くの敵兵を討った。

 驁は()(こぼ)れして、もはや鈍器と化していた戟を地面に落とし、返り血でまっ赤になった拳を掲げ、叫んだ。

「勝った……匡章に勝った……! 武関を守ったぞ!」

 彼の言葉に呼応し、多くの兵が歓声をあげた。こうして、武関戦線は秦軍の勝利で幕を下ろした。



 隴関 秦軍


 総帥羋戎は隴関の高所から、火矢を放ち、板楯族の攻城兵器を破壊することに専念していた。彼らは蛮族としては有り得ないほど精巧な破城槌や、投石器を運用していた。破城槌を動かす兵への妨害に兵を割けば、広い関の別の箇所に梯子がかけられ、板楯族は身軽に駆けあがってくる。そこへ石や熱湯を落とすことに気を取られれば、関の門には、ヒビが一つ、また一つと、入っていくのだ。


 隴関は陥落寸前であった。既所のところでなんとか攻撃を防いでいた秦軍に痺れを切らした板楯族の頭目は、油を溜めた瓶に火を着け、それを投石器で投げつけた。それは高い軌道を描きながら、関を越え、隴関内側にまで火を広げた。


 総帥羋戎はその攻撃を見て唖然とした。背後に広がる関の内側は炎が広がり、地獄のように燃え盛っていた。

「板楯族め……投石器を使いこなしているとは……ただの蛮族ではないな。やはり背後には義渠県がいるのか。頭目を捕らえて、すべて吐かせてやる……! 伝令! 命を伝えよ」

「御意!」

「隴関の外で遊撃部隊として戦っている任鄙将軍の騎馬部隊は敵本陣を急襲。その他馳車部隊、弓兵部隊は、それを支援しろ! 全軍攻勢に出るのだ! 火矢による敵攻城兵器の破壊は継続しつつ、隴関内にある投石器を敵兵目掛けて投げつけるのだ! 一人残らず殺せ!」

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