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第三五話 函谷関の戦い 六

 魏冄は魏の大梁で、魏王、韓王の三人で和睦の交渉を行う。

 魏 大梁


 武関で決戦が行われる数ヶ月前、魏の首都である大梁たいりょうにて、秦の丞相魏冄は交渉の席についた。それは彼の提案により催された和睦わぼくのための交渉であり、魏王や韓王を相手に、秦が有利に停戦できるように交渉を行っていた。

「戦国七雄の中、我が秦を除く山東六国、すなわち魏、趙、韓、斉、燕、楚は、秦が函谷を失えば滅びると誤解しております。魏王、よくお考えください。国の首都が失われれば、国はすぐさま滅んでしまうものなのでしょうか」

「そうとも限らぬな」

「左様です。秦には、長らく都であった雍もあり、国の機能はすぐに再生できます。また巴蜀は人が多く、関中は豊かで、租税も多く徴収できます。あなた方が国の経済を傾けてまで函谷関周辺を攻めても、得られるものは、焼けただれた函谷関のみですぞ」

「しかしだな魏冄殿、虎狼の国とも呼ばれる秦は、我が魏の領地を奪っている。それを奪い返したいという気持ちがある限り、我々が秦を攻めるのを止めることはできぬのだ」

 魏王の言葉に、韓王も同調した。

「我が韓も領土を奪われた。かつてはともに楚を攻めた友好国だったが、今となっては敵だ。その地を返すというのなら……我々もとめることを考えてもよいぞ」

 魏冄は髭を撫でながら、余裕の笑みを浮かべた。しかし内心、領土割譲という停戦の糸口を見つけられたことに安堵していた。

 大梁を訪れる前、趙の首都である邯鄲かんたんを訪れた魏冄は、趙王が同盟を守ると宣言してくれたため、趙に憂いはなくなっていた。そのため、魏と韓を手ごまに取れれば、勝てると考えていた。

「しかしだな魏冄丞相。今は乱世であり、戦が終わるときは敵がいなくなったときだ。韓王もそうは思わぬか」

「思います。我々は元より同じ国。先祖の利害で数百年前に分裂こそしたが、また手を取り合える仲間であります」

「そうだ。しかし、秦は違うな丞相。そなたらは蛮族と呼ばれ、その始祖は殷の中央に仕えた怪力の極悪人、悪来の血を引くともいわれている。秦を憎む者は多い」

「始祖を辿るのならば、我らはみな同じ黄帝こうていの子孫。血筋で罵るのは的外れというもの」

 魏冄の言葉に、魏王は顔をしかめて不愉快さを顕にした。

「そう下らぬ言葉を弄していられるのも今の内だぞ……秦の魏冄よ」

「それは一体……どういう意味ですかな?」

「咸陽は間もなく蹂躙され……秦は滅亡の一途を辿ることになるぞ……!」


 武関 秦陣営


 任鄙軍の攻撃に、匡章軍は勢いが弱くなっていた。

 高陵君、涇陽君は公孫奭の支援もあり善戦しており、その勢いは主力の羋戎軍にも伝播し、混戦となり収集がつかなくなっていた暴鳶軍相手に善戦し、完全に日が落ちる頃には暴鳶軍に一万弱の死傷者を与え、壊滅させるに至った。

 決戦が始まって早くも十二刻(六時間)が経過しており夜になっていたが、散り散りになって逃走する暴鳶軍を、羋戎軍は追撃した。

 羋戎は自らも馬に跨り、追撃に出た。

「今日だけですでに一万弱の敵をくじき、数十の首級を上げている。今回ばかりは、敵も再起不能だ。あとは、敵将暴鳶の首を取るのみだ! 追え、逃がすでないぞ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  本格的ですね。凄いの一言です。  春秋戦国時代にあまり詳しくない僕なのに、相当の興味を引き出されてしまいました。 [一言]  僕にとってこの作品は、歴史時代の戦記物としてお金を払ってでも…
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