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第三一話 函谷関の戦い 二

 本陣を囮にした匡章は、函谷関の城壁に梯子をかけ、攻撃する。将軍任鄙は城壁攻略を図る匡章の妨害を行うが、羋戎は参加せず、離れた丘で待機していた。

 羋戎軍は主力軍を精鋭騎兵で破り、本陣へ突入した。しかしそこには匡章の大将旗こそあれど、その姿はなかった。そこには影武者と、その場から逃亡する馬車の姿があった。

 羋戎の副官たちは「追跡しましょう!」とせがむも、羋戎は冷静に、副官を止めた。

「罠であろう。かつて濮上ぼくじょうの戦いや二十年前の函谷関の一戦であれほどの激戦を演じた匡章が、こんなにも早く逃げ落ちるとは思えん」

「しかし、主将を逃がしたと、秦王に詰問されてしまいます」

「そうだな……追う必要はない。捕虜の耳に、溶かした鉛を流して拷問をし、情報を吐かせろ。嫌な予感がするな……。本物の匡章の部隊は……もしや……!」


 本陣で匡章の旗を掲げていたのは、魏将、芒卯ぼうぼうだったということが、捕虜の証言で明らかになった。

 しかしそれを確認するよりも前に、羋戎は函谷関の方へ向かい、撤退していた。匡章が函谷関を攻めていると察知したのである。

 匡章は函谷関付近の森林に忍ばせていた精鋭五千を率い、突如として函谷関を攻めはじめた。

 初日に函谷関に梯子をかけられるなど想像もしていなかった秦王は、命の危険を感じ、絶句した。

 函谷関に梯子をかける匡章軍を攻めるため、任鄙軍は司馬昌軍の残兵を率いて突撃した。弓兵による梯子の攻撃と、騎馬兵と歩兵による撹乱かくらんは、効果的だった。

 後方には、敵本陣を攻め落とした羋戎軍も接近しており、匡章軍は袋の鼠になったかのように思われた。

 しかし羋戎軍は、少し離れた丘の付近で、停止した。

「函谷関での攻防には参戦するな。ここで待機する!」


 兵力の損耗が激しい任鄙、司馬昌の軍は、少しづつ匡章軍に返り討ちにされ始めた。公孫起は、配下の農民の兵が次々と討ち取られていく様を見ながら、焦っていた。

「敵は兵装を見るに、全員が精鋭。恐らくは……普段から都の警備や重要人物の護衛を務めるような連中だ。数でもこちらは不利で、疲労も溜まっている……。なにゆえ、羋戎様の軍はこちらへ参らぬのだ……!」

 敗走まで時間の問題。しかし彼らは粘るしかなかった。


 それから半刻(三十分)が経ち、日が暮れだした。すると突然、匡章の軍は少しづつ撤退していった。公孫起らはなにが起こったのか分からなかったが、この日、再度戦が起こることはなかった。

 函谷関の外の秦軍は、羋戎主導で野営地に戻った。司馬昌と羋戎は秦王より宮殿へ招集され、そこで詰問された。

「羋戎、そなたが司馬昌率いる中央軍の助けに向かわなかったことは、なにも問わぬ。しかし、なにゆえそなたは函谷関を見捨て、丘で日和見をしていたのだ」

「恐れながら申しあげます。見捨てた訳ではなく、それが最善と判断したため、私は丘で軍を止めました。匡章は付近の森林に伏兵を置き、我らが司馬昌軍の助けに向かったところを、伏兵で挟み撃ちにし殲滅する腹積もりだったのでしょう」

「なぜそう思うのだ」

「これは以前、垂沙の戦いにてやつが用いた手だからです。もしこの仮説が正しければ、奴が優勢でありながらも撤退した理由にも合点がいきます。我々が函谷関へ救援に行けば、伏兵で我らごと包囲し殲滅できますが、反対に、我らが向かわねば伏兵を動かせず、匡章軍もまた任鄙、司馬昌の軍を殲滅したのち、肝心な函谷関を攻略するだけの兵力を保てません」

「つまりそなたが、函谷関を救ったといいたいのか。なんと面の皮の厚い」

 秦王は羋戎を睨みつけ、鼻で笑った。

芒卯(生没年不詳)……戦国時代の魏の政治家、将軍。

詐術で魏王に取り入り司徒となる。

紀元前273年、華陽の戦いで趙と合従し秦の白起と戦うも大敗を喫した。



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