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第二四話 生涯の友

 虎を撃退し、奇襲のため下山を始める残存兵たち。指揮系統が乱れた中で兵をまとめあげる公孫起をみて、伍長の驁が声をかけてくる。

「なにゆえこんなことに……韓章様……馬遂様……なにゆえこんなお姿に……」

 嘆く公孫起に、岩陰の中に隠れていた配下の男が声をかけた。

「公孫起様……! ご無事でしたか!」

馮勝(ふうしょう)、そなたも無事であったか……!」

「突然虎が入ってきたゆえ、迎撃しましたが……あまりに早く、数も多いため対応が間に合わず……!」

「もうよい、とにかく残存兵を集めて合流せねばならん。急げ、この山に長居は無用だ!」

 百将をはじめ、多くの将官が落命していた。統制が取れぬが、逃げだす場所もなく、固まって下山するしかない状況で、兵らは自然と公孫起の命令に従うようになっていた。

「馮勝、兵の総数は?」

「六百です」

「私は五十名を率いる屯長だ。一夜にして、十倍以上の兵を統べて、下山せねばならんとはな」

 公孫起は苦笑いした。笑える状況ではないが、だからこそ、笑って気丈に振る舞わねば、この重責に押し潰されそうだった。

 だが、下山したいという兵の心は一つだ。心さえ統一されているなら、あとはなんとでもなると、そういう気もした。


 公孫起率いる六百の部隊は、下山を始めた。その中で、彼はあることに気づいた。こういう状況に、前にも陥ったことがあると思ったのだ。

 それは、商売での経験だった。年の瀬に、繁忙期を迎えた。人を率いて商売をすることなど、ほとんど初心者だった。だが店の主として人をまとめ、客を捌いた。その経験から、大勢の人を操ることなど自分には容易だと、自信が湧き出てきた。

「混成部隊がなんだ。(みな)等しく、訓練を受けた猛者たちではないか。やる気のない店の者どもとは訳が違うであろう」

 そういって自信の笑みを浮かべる公孫起に、横にいた男が声をかけてきた。男は昨晩の洞窟で、ともに虎を退けた仲間であった。

「公孫起殿は、屯長の座に治まる存在ではありませんな。かように大所帯でありながら、上手くまとめておられる。曲の器です」

「なにを申す。そなたの昨晩の働きこそ、伍長のものではない。屯長として、前線で仲間を率いて手足のように用い、戦にて功を立てられる器だ」

 公孫起の言葉に、男は拱手をして礼をした。

「……聞きそびれていたな。そなたの名は?」

(ごう)と申します。(おご)り高ぶるの、驁です」

「出身はどこだ?」

「斉です。戦で身を立てたく参りましたが、斉では活躍の機会がなく、各地を放浪した末に秦へ参りました。斉はよい土地ではありましたが、戦の功で身を立てるという夢には、敵いません……。失礼しました……自分語りが過ぎました」

「気にするな。しかし字面に似合わぬ男だ。故郷の斉を愛し、礼を尊ぶ。きっと父母にも孝を尽くした(こう)(れん)な人なのだろう」

 驁は、眉が濃く、筋肉質な男だった。その人外な程の怪力は、いつか秦のために大きな功績を立てるだろうと、公孫起は思った。

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