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第二二話 奇襲策

 少数の軍勢で綿竹県を攻めるため、李雲は部隊を別けて、奇襲策に打ってでることにした。

 桟道を抜けた先の乱戦で、一際激しく動き回る男がいた。彼は支給された戟ではなく、自主的な特訓で使い慣れた槍を使っていた。

 男は一突きで防具を身につけていない敵兵の体を二つ同時に貫き、引き抜いた勢いそのまま後方から襲う敵の戟を弾き、素早く反転し首を斬った。

「さすがは公孫起様だ!」

「屯長は百人力だ!」

 回転斬りをして、甲冑のない敵の足の腱を斬る。素早く立ちあがった。そして、こちらに向かい走りながら剣を振りかぶった敵の剣を、槍で受け止め、気迫で鍔迫り合いを制した。剣を弾かれ体制を崩した敵を、容赦なく突き殺した。

「死にたい者から出てこい! 斬り伏せてくれようぞ!」


 公孫起らの攻撃で敵を押し、勢いそのままに追撃を加えると、綿竹県へ到達した。関所の門は固く閉ざされ、公孫起らは攻めあぐねた。

 李雲は思案した。高所からの弓や、梯子を登る兵への熱湯がけという妨害に、手も足も出なかった。大軍があれば力で押せるが、四人の将軍によって別行動となっているため、この任鄙軍は少数だ。さらに任鄙の部隊は狭く険しい道を効率よく攻めるため、数個に分けられていた。そのため、綿竹県の門を攻めているのは、わずか数千の兵であった。

 正攻法では攻められない。断崖絶壁を登り、森林を通って関所の裏に回る奇策に打って出るしかないと、李雲は考えた。

「この場の責任者は私だ。この場の数千の兵は、曲である私か韓章の命令にのみ従う。馬遂よ、奇襲のため、韓章に千の兵を率いて山登りさせることとする」

「御意」

「それから、馬遂。そなたも同道しろ。曲の韓章を補佐するのだ」

「御意!」


 千の兵を連れて、韓章は崖を登った。

「趙の武霊王が胡服騎射を取り入れてから、(あぶみ)(くら)が発明された。蛮族のように力ずくで跨らずに済むようになったゆえ、乗馬は容易になった。とはいえ……かような崖は登りがたいな」

 呑気に呟く韓章。馬遂は笑って、韓章にいった。

「ここまで険しく危うい崖なら、伏兵の心配もありますまい」

「人も馬も、容易にここで待つことはできぬな」

(まさ)しく。物の怪の類でなければ、不可能でしょう──」

 それは、伏兵は不可能という意味で発した言葉であった。

 急に天気が崩れると、雨となった。道が泥濘(ぬかる)むと、進軍は不可となり、森林の中で立ち往生することになった。

「突然の悪天候とは、妙だな馬遂よ」

「ここは要害の地、巴蜀ですぞ韓章様。山頂でもありますし、天候は乱れるものです。曲として、堂々となさってください。配下の兵は冷えと空気の薄さから、不安になっております」

「そうだな。あの洞窟で雨風を防ぎながら、治まるのを待とう」

綿竹県……現在の中華人民共和国四川省徳用市北部。

竹が生い茂っていたことから名付けられた。古蜀、羌族が築いた仮面の青銅器文化の遺跡である三星堆さんせいたい遺跡が、発見されたことで有名。

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