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第二一話 蜀の桟道

 危険な蜀の桟道を通り、李雲らは進軍する。

 剣閣を抜けた将軍任鄙は、意気揚々と進軍した。伏兵に注意しながら進軍するも、数万の大軍による進軍は、困難を極めた。

 後続部隊の李雲は困惑した。

「この道を通るのか……あともう少しでもいいから、開けた道を行くべきだ。将軍は伏兵を恐れすぎではないか」

「違いますぞ李雲殿。これは恵文王様の時代に構築された桟道さんどうという道です。巴蜀は断崖絶壁が多く、ここしか道がないゆえ、この道を通るしかないのです」

 崖に杭を打ち込み、その上に板と柵を固定した道は、蜀の桟道と呼ばれている。一歩間違えば転落死するような危険な道を、縦一列になって進んだ。

「出口の陸地に兵が展開すれば、容易に敵を崖に落とせるな」

 李雲は呆れるように呟いた。

「感心しておられるようですな、李雲様」

 副官の百将、馬遂はつづけた。

「私の配下の屯長にも、同じように、ブツブツと呟いている者がおります。李雲様のように、なにごとにも関心を持ち、考え込まねば気が済まない物好きも、少なからずいるものなのですな」

「どういう者だ、名はなんと申す」

「屯長の公孫起という者です」

「公孫起とは、郿県の公孫起か?」

「さぁ……お知り合いですか? 後方におりますが呼びましょうか?」

 馬遂はいうや否や、赤面した。

 李雲は桟道を見渡し、それから足元にある人一人分しかない板に目を落とした。

「この道幅では、呼べそうもないな」

 なんともしがたい間が空いたが、どこへも行けず気まづい。しかしそんな気まづさも、周囲に漂う緊張感に飲み込まれ、誤魔化されていった。


 陸地へもう少しというところで、公孫起は異変に気づいた。

「陸地の方でなにか騒乱が起きてるな」

 配下の伍長に声をかけると、伍長はいった。

「公孫起屯長の申した通り、伏兵ですか」

「そうやもしれんな。このままでは待ちぼうけだぞ」

 しかし公孫起の心配は杞憂だった。死を恐れぬ突撃で陸地での防御は崩れ、すぐに乱戦となったのだ。

「進め進め! 前方での戦に遅れるな!」

 公孫起の激励に配下たちは勇み立ち、道を踏み外す心配もせず、前へ前へと進んでいく。そして陸地へたどり着いたとき、彼らは固まって戟を振るい、叫んだ。

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」 

 敵の秦兵もまた叫ぶ。

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

 同じ武器を持ち同じ訓練を受けた人々が、統制の取れない乱戦の中で、死闘を繰り広げていった。

蜀の桟道……漢中から成都まで続く道。秦の恵文王は蜀王に金の牛を贈ると騙し、蜀王に漢中からつづく道を断崖絶壁に築かせた。その道を利用した秦の司馬錯によって、蜀は国を滅ぼされた。

崖に杭を打ち込み、そこに板を敷くことで築かれた険しい道は現在、四川省の観光地となっている。

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