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第二十話 蜀煇の乱

 またしても王の血族により反乱が起こされた秦。公孫起は難攻不落の蜀の地を攻め、剣閣の地で戦闘に参加する。

 同年 咸陽


 秦王は泣いていた。信頼した兄が、反乱を起こしたからである。信じられるのは家族だけという魏冄の言葉も、今となっては戯言のように感じられる。

「数ヶ月前に、咸陽にいた兄上は、あんなにも優しかった。余を王として認め、拝謁までしたではないか。なにゆえ……なにゆえ巴蜀に戻られてすぐに、かようなことに相成ったのか……」

「巴蜀へ戻る前、蜀煇殿は陛下に巴蜀で取れた熊の肉を献上致しました。なれどそれは毒入りで、毒味をした従者が、帰らぬ者となりました。知らぬ存ぜぬと狼狽しておったお姿は……すべて偽りであったのでしょうか。食卓を囲ったお姿も、すべて……」

「今となってはどうでもよい。乱を起こしたのならば、余の敵であり、秦の敵だ。首を取らねばならぬ」

「ご叡明にございます。陛下、巴蜀では司馬錯大将軍が乱鎮圧の兵馬を整えております。先の反乱鎮圧後で功を挙げた任鄙将軍も参戦しており、我らが優勢です」

 秦王は玉でできた麒麟(きりん)の置物を撫で、「血族といえど、政敵とあらば、情けは無用であるな」と、呟いた。



 巴蜀 成都城 蜀煇陣営


 (せい)()城に立てこもる蜀煇の軍勢は、司馬錯の許で副将として戦をつづけてきた楊奐(ようかん)左吉(さきつ)によってまとまっていた。しかし彼らは恐れていた。

「司馬錯大将軍の本軍が攻め入るよりも前に、大部分を撃破せねばなりません。この巴蜀は、攻めがたく守りやすい。敵が各地で足止めされている内に、我らは本軍を除くすべての軍を撃破するのです」 

 楊奐は不安がる蜀煇をなどめるように、穏やかな口調で話した。

「ありがとう。そなたはかつて合従軍に参加し、諸国とともに楚の垂沙を攻めた実績がある。信頼しておるぞ」

左吉もまた、蜀煇に声をかけた。

「私の妖術にて、敵軍を蹴散らしてみせましょう」

「左吉よ、そなたのその摩訶不思議な術も、司馬錯大将軍には手の内を知られているのではないのか」

「きっとそうでしょう。しかし司馬錯大将軍は俗人。山中にて術中にはめて、翻弄してご覧入れましょう」

 蜀煇はその胡散臭さに、苦笑いをするのがやっとであった。



 巴蜀 剣閣関(けんかくかん) 秦王陣営


 剣閣とよばれる谷で、秦の両軍はせめぎ合いをしていた。反乱軍の名もなき将軍と将軍任鄙とでは、経験や能力に違いがあった。徐々に谷で反乱軍を押していく秦王軍だったが、難攻不落と言わる巴蜀への侵攻では、やはり犠牲が多かった。

 将軍任鄙は後詰めを援軍として出し、剣閣の突破を図った。

「敵は疲弊しきっている! 頼りの地の利も失いつつあり、あとは畳みかけるのみだ! 私につづけ! 褒賞を手にしようぞ!」

 数千人を率いる曲、李雲の言葉に、軍は奮い立った。意気揚々と突撃していく秦王軍は、剣閣を抜いた。

 戦を振り返って公孫起は、「今までは最前線にいたが、激戦地へ途中参加というのは、また違った戦場だったな」といった。

「屯長殿の命とあらば、我々は、炎が燃え盛る地獄のような戦場でも、恐れることなく進んでみせましょう!」

「その意気だ。我が隊は李雲様より期待されている。手を伸ばせ! 最も功を立て、最も褒賞をつかんで見せようぞ!」

成都……現在の中華人民共和国四川省成都市。四川省の省都。

司馬錯によって、成都平原に築かれたとされる。

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