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第百七八話 長平の戦い 三

 長平にて趙軍の第一線を破った王騎軍。しかし廉頗が築いた第二線は遠く、砦を放棄して再び平野に陣営を築くことになる。

 前261年(昭襄王46年)2月(開戦5ヶ月目)


 第一線を破った王齮は、そのまま前進し、平野へ進んだ。

「司馬靳将軍。敵将廉頗は、真の名将ですね。これだけ用意周到であれば、誰もが勝利に向けた攻めやすい陣地を構築する筈です。しかしながら廉頗は、第一線を破られた後、そこを利用させぬ為、敢えて平野を放棄し、その奥に築いた第二線に篭っています。もし我らが第一線に陣を築けば、敵の動きを目視で察知した後、対処が遅れ、防戦一方となってしまいます」

「そうだな王齮将軍。我らはまたしても平野に陣地を築き、敵に高所から見下ろされる形で、機を伺わねばならない。またしても時をかけ、隙を狙わねばならぬな」


 秦軍はその後、これまで通りの斥候や小競り合いを行うことのみに留まった。それがまたしても数ヶ月続いた。

 しかし、小競り合いを繰り返す秦軍の兵の中には、次第に動揺が広がるようになっていた。

 どんなに小さな戦いでも、人が血を流し、命を落とすのである。

 にも関わらず、得られる成果はなく、ただ攻めては、退くのである。

 部下の反発を抑えきれなかった王翦が、兵の動揺を伝えるべく、本陣を訪ねてきた。

「司馬靳将軍、この小競り合いに一体なんの意味があるのですか!」

「兵が動揺しているのは分かっている。しかし、それはまだマシだ。陣営に篭もり、屯田ばかりに精を出していれば、次第に体が鈍って戦意を失ってしまうのだ!」

「戦意は既に下がっています! 斥候に時間をかけすぎなのです! 敵将が優れているのは百も承知です。しかし……城はおろか僅か一万の兵しかいない陣営を奪っただけで、長平にあとどのくらいの時間を費やすつもりなのですか!」

 司馬靳は、王翦のいい分はもっともだと感じた。この若武者を抑えられる理屈はなかった。抑え込むことはできるが、そうすべきなのか分からなかった。

 この軍を率いるのは武安君白起ではなく、若輩の王齮である。だからこそ、小競り合いを繰り返しながら隙を狙うというこの方策が正しいのか、分からなかった。

「数日待たれよ、王翦殿。兵から陳述があった旨を王齮将軍に伝え、諸将を交えて今後の方針について話し合う」

「御意。御賢察の程、よろしくお願いいたします」



 同年 7月(開戦10ヶ月目) 咸陽 


 咸陽にて、国尉として政務に励む白起は、突然現れた秦王の使者より、宮廷の庭へ来るよう招かれた。なに事かと思い、慌てて執務室を飛び出した白起だったが、秦王は妾に大きな羽を扇がせながら、東屋の下で茶を飲んでいた。

「武安君よ、座れ」

「急なお呼び出しとは、なに事ですか」

「まぁ座るのだ。立ったままでは話はできぬ」

「御意」

 事態が飲み込めないまま腰を下ろすと、女官が茶を差し出してきた。

「涼を求めて外へ出たものの、日差しがきついなぁ。昨年末の冬に開戦した長平の戦だが、今年の夏は一段と暑い。将兵は今頃、地獄の暑さの中で廉頗と我慢比べといったところか」

「長平で我慢比べ……つまりなにか進捗があった訳ではないのですか……?」

「なにもない。だからこそそなたを呼んだのだ武安君よ」

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