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第百六八話 弟への諫言

 魏冄と羋戎は秦王に呼び出され、三人だけで話をすることとなる。秦王の容赦なく魏冄を捲し立て、魏冄は憤慨し、部屋を飛び出す。

 前265年(昭襄王42年)


 張禄が丞相の権力を完全に手にしたことで、秦王は白起と張禄の二人と協力し、秦国の天下統一へ更に舵を切ろうとしていた。しかし秦王は、未だに魏冄や羋戎が咸陽に居座り、各々の封地へ向かわないことに、腹を立てていた。

 秦王は、理由をつけては封地への移動を先延ばしにする魏冄と羋戎を呼び出し、三人で話し合う席を設けた。

 秦王は五十代になり、少しづつ癇癪癖がその激しさを増していた。魏冄と羋戎は、髪が白くなってもなお盛んで、その影響力を手放そうとしない。秦王は剣を片手に持ち、殺気をまといながら、二人が待つ話し合いの部屋に入っていった。

「ご機嫌いかがか、叔父上達よ」

「健やかです」

「私も、兄上ど同じくです。秦王様」

「左様か。そうとあらば、単刀直入に聞かずにはいられぬ。二人はなに故、未だに咸陽にいるのだ。そなたらの居場所は封地にあり、それらの地で収穫物を税として徴収し、咸陽へ持ってくるのだ。無様な詭弁は要らぬ。簡潔に申せ」

 羋戎は、言葉を失っていた。最早、年長者であることや、秦王擁立の功労者であることなどは、関係ないのだと思い知ったのである。

 秦王は、呆気に取られている羋戎を無視し、未だに意固地になる魏冄を、睨みつけていた。手に握った剣の刃が、鞘の内側で動き、金属が当たる音が響く。

「申せ。黙るでない」

「では申し上げる。我らは老人。封地への長旅には、耐えられませぬ」

 秦王は剣の先を床に叩きつけ、威嚇した。

 立ち上がり、自らを見下してくる秦王に、魏冄は、立腹した。挑発に乗り、同じく立ち上がった。

「そなたは王を睨みつけている。余の力を見くびるでないぞ。余は既に、世間知らずの童ではないことを思い出せ」

 秦王の言葉に、魏冄は悪態を吐くことも、あしらうこともできなかった。ただ唯一の抵抗として、黙り込むしかできなかった。

 秦王は瞬き一つせず睨み続けた。

 堪らず、羋戎が立ち上がり、仲裁に入った。しかし魏冄はその怒りを忘れられず、部屋を抜け出した。

 羋戎は、魏冄の臣下としての無礼千万な行為を詫び、続いて部屋を抜けた。


 魏冄はそのまま宣太后の許へと向かい、後を追った羋戎と共に、宣太后の部屋へと入っていった。

 魏冄は、自身が無下にされる苦しみを、実の姉である宣太后であれば理解してくれる筈だと考えていた。しかし、宣太后は受け入れてくれはしなかった。

 そればかりか、ワガママ放題の魏冄と羋戎に激怒した。

「いつまで稷を困らせるのか、恥を知りなさい! いつまでも過去の栄光にすがって、王の政の邪魔をしては、秦の大志の成就を遅らせるとはなにをしているのか!」

「しかし姉上、秦王は余りに横暴です。張禄などという、どこの馬の骨かも分からぬ男を丞相にするなど……」

「あなたはもう秦の丞相ではなく、咸陽にいる必要もない、地方の主なのよ! 政には口を出さず、秦王の命に従って臣下の本分を果たしなさい!」

 既に高齢の宣太后は、狂ったように絶叫しながら容赦のない言葉を浴びせた。それは他の誰にもいうことができない、対等な立場である肉親であるからこそいうことができた、諫言であった。

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