表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/194

第十六話 命を育む水

 公孫起は鬱憤を晴らすため、屋敷の近くにある畑にいった。そこで鍬を振りながら、農民と他愛のない話をしていた。

 公孫起は街を出て、近くの畑へ来ていた。公孫の家に養子として入る前は、農民として、土いじりをしていた。太陽の下で汗をかきながらくわを振っていると、少しは憂鬱な気も晴れた。

「公孫の旦那、少し茶にしましょうや」

「ようやく体が温まってきたので、もう少し作業をしたい。どうもありがとう」

「働き者だなぁ。あんたみたいな、仕事にやる気のある人がいつもいてくれたら、嬉しいんだがねぇ」

 それでは私の役目がなくなる、と公孫起は少し笑いながらいった。

 公孫起は、義両親が店に出すための野菜を、彼らから買っていた。農民との繋がりを伝って、彼は憂さ晴らしをしていた。

 日が落ちるまで鍬を振るい、その日はお開きということになった。

「ここの野菜で作ったあつものと、酒です」

「ありがとうございます。ここの野菜は新鮮で、美味い。虫がたくさんかじっているものも多いが、それだけ美味いということなのでしょうな」

「お目が高い。普通は傷のないものを買っていく人が多いが、公孫の旦那はよいものを見極め、買っていかれる。どおりで、あらゆる地で公孫という方の名が轟く訳です」

 公孫起は謙遜するように、微笑みながら、酒を呑んだ。

「農民なのに、他の地の話を聞くことがあるのですか」

「えぇ、この水路は渭水いすいに続きます。渭水は、東に

鎬京こうけいがあり、西には雍城があります。更に西へ行けば、異民族の地が広がっておりますが、商人はそんな所を通って、ものを売り買いしています。それによって色んなもの、話が、この川を通ってこんな畑にまで流れてくるのです。そういう意味でも、水は多くの恵を与えてくれます。水は命の源ですよ」

 雍城はおろか、白家村でさえも、水が豊富にあった。しかし旱魃かんばつは多くの人の命を奪うと、彼は知っている。分かってはいるが、実感はない。ゆえに、手のひらにある酒を見た。少し振ったら、チャポンっと音を立てた。この手のひらに収まる水が人の生き死にに直結するとは、あまり思えなかった。

「ここに実る作物も、この水を飲み成長しています。火のように、いつかはこの水が、戦で多くの人を殺すのでしょうか」

「なぜそう思うのです? 人は治水や灌漑かんがいをして川を制御することはできますが、逆に洪水や氾濫のような、天の怒りを御することは叶いません。つまり水の扱いには、限りがあるのです。戦に水を用いるなどとは、とても思えません」

「なんとなく、思っただけです。洪水や氾濫のような水害を行う神のような人が現れれば……。いや、なんでもありません。ひがな一日畑を耕すしかすることのない我々のような農民は、そんな突拍子もないことを考えてしまうのです」

 そういって、農民は恥ずかしさを笑いとばし、酒を呷った。

渭水……黄河の支流の一つで、全長818kmある河川。

陝西省咸陽市の南、西安市の北を流れて黄河中流の潼関で合流。流域の盆地は肥沃な土地であり、関中と呼ばれる。

古代から中世にかけて、中華文明において文化的、経済的に重要な役割を果たした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ