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第十四話 白銀の景色

 雪が降るなか、李雲は任鄙から賜った褒賞を届けるため、公孫起を訪ねる。

 囲炉裏の前で、燃えたぎる炎に掌をかざして暖を取る。公孫起は息を吐き、白くなった息を見た。「白か、良い色だな」、となんの気なしに呟き、微笑んだ。

 家の扉が開き、げんが入ってきた。

 扉の向こうでは、雪が降っていた。

「風邪を引かぬよう、こちらへ」

「助かるよ起、ありがとう」

 穏やかな時間だと思っていると、扉を叩く音が聞こえた。

 名残惜しそうに囲炉裏から立とうとした元を、公孫起は止めた。公孫起が扉を開けると、そこには秦兵がいた。

「公孫起殿はおられるか」

「私ですが、なに用でしょうか」

「将軍からの贈り物があるゆえ、将軍の命により届けに参った。先の戦における戦功に対する、褒賞だ」

 忘れていた訳ではない。だが数ヶ月経過していたので、所詮は口約束だったから、反故にされても仕方あるまいと思っていた。

 拱手をし、「感謝申し上げます」というと、奥から聞き覚えのある声がした。

「これは私からだ。公孫起よ」

「李雲殿ではありませぬか」

「これは良い酒だぞ、ともに呑もう。そなたと話したいことがあるのだ」

 李雲と公孫起は乗馬し、付近の川へ向かった。その近くで焚き火をし、二人で暖を取りながら酒を飲んだ。川のそばでなら火事にもならないし、家にいては家族を驚かせるので、川に来た。李雲の配慮であった。

「川は良いな。流れる音は澄んでおり、汚れを遠くへと追いやる。酒も、こういう水がなければ作れぬ」

「それで、話というのは?」

「無駄話は嫌いか?」

「いえ……ただ、寒すぎるので」

 それもそうだ、と李雲はいって笑った。

「実はだな、任鄙将軍より興味深い話を伺ったのだ。それをそなたへ話したかった」

「将軍はなにを仰っておられたのですか?」

「一から話そう。覚えているか公孫起よ、我らが五年前、板楯の侵略を鎮圧した折りのことだ。奴らは蛮族らしからぬ洗練された用兵術を用いて、我らを窮地に陥れた」

「忘れもしません。あの日、我が無二の友は帰らぬ人となりました」

「采配を誤ったといえばそれまでだが、それ以上に、おかしいとは思わぬか」

 公孫起は、ただならぬ面持ちの李雲を見て、言葉に詰まった。

「よいか公孫起よ、板楯の背後には、秦の滅亡を祈る者がおる。それが誰か分かるか」

「誰です、誰なのです……!」

「義渠だ。魏冄大将軍が滅ぼした国であり、今はその王子が県令として、義渠県を治めている」

「滅ぼせぬのですか」

「できぬ。証拠がないゆえ、反逆とは見なされぬのだ」

 公孫起は絶句した。自分が誓う復讐は、いつの日かあのトサカの被り物の男を殺せば、終わると思っていた。それまで、敵を打ち払いながら、研鑽けんさんを積んでいこうと思っていた。

 だが、真に倒すべき敵は、倒すことが許されぬ秦の一部なのだ。

 憎い、とにかく憎い。あの男が、板楯が、そして顔も名も知らぬ義渠の県令が、憎かった。

 時折、とてつもない怒りが湧く。トサカの男を殺し、その友人や家族に自分が味わった苦しみを味合わせ、そして死ぬまで、怒りと憎しみに心を病みつづけてほしい。その思いは、日に日に増していくばかりであった。

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