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第百三九話 魏冄、譲歩して企む

 老人となり、自分には時間が長く残されていないと感じた魏冄は、魏へ譲歩する。

 魏冄は日を跨いで、須賈との会合を続けた。必要以上に血を流させないようにしながら、首都を開かせる。それは刃を用いない戦であり、とにかく時間がかかるものであった。

 だが魏冄に焦りはなかった。秦は無謀な兵站を敷いておらず、いつでも十分な補給を受けられる。しかし魏は包囲されており、時間が経てば、城内は飢えるのだ。むしろ、時間をかけて、魏が弱った所を攻撃するという手もある。魏冄は、勝利を確信していた。

 しかし魏冄は時間が経てば経つ程、妙な感覚に襲われた。それは、この頃感じる体の不調に起因していた。

 久々の戦に、老いた体が堪えてしまったのではと感じた。戦場では、綿が敷き詰められた寝所もなく、心を癒す妾や幼い男女の踊りも見れず、花や池の魚を愛でることもできない。

 その疲れは、確かに心に積もっていっていた。

「大梁を陥落させるよりも前に……私が……死ぬのか?」

 ほとんど耄碌しているかのようなその戸惑いに、側近らは困惑するしかなかった。


 魏冄は、会合を早く終える為、譲歩する姿勢を見せた。

「須賈殿、あらゆる取り決めを定めましたが、問題は山積みです。魏は数ヶ月間の包囲を受け、疲弊しているでしょう。また事情も分かりませんが、同盟国である趙や韓も、なぜか助けには来ません。まぁ概ね、趙は我が国とも同盟を結んでいる為、停戦し和平の交渉をしている我が方に攻撃するのが、憚られるのでしょう。韓はもはや軍を出せないといったところでしょうか」

「なにが仰りたいのか分かりませんな」

「なんにせよ、魏は孤立無援ということです。私は弱い者いじめが嫌いなのです。小さくて弱い者程、可愛らしく、愛でたくなるものです。故に私は、譲歩したいと考えています」

「それは、どういう譲歩でしょうか」

「これまでの会合は、事実上の降伏を迫るものでした。しかしそれでは埒が明かない。故に、武具兵糧の譲渡というので、手を打ちましょう。我が方は魏人ぎひとを下僕にはせず、これ以上、将兵の首も撥ねない。ただ、そちらがすぐに報復に出て来れないように、時間を与えて欲しいのです」

「それは……実に良い案です。進まぬ会合を進めることができる。して、その量は?」

「兵糧二十万石です」

「二十万石……ですか。良いでしょう。同胞の命に比べれば、安いものです」


 魏冄は、長く続いた会合を終えることに成功した。遂に、事実上の魏の制圧を完遂したのである。後は常に魏を見張り、縛り付け、再起の芽を摘み取るだけである。

 魏冄は、これで、鄢の水攻めという蛮行に及んだ白起よりも、軍中の人心を掌握できると考えた。

 加えて、中原の一大都市に、自身の影響を及ぼすことができるようにするという、彼の個人的な思惑を達成することができた。

「伝令兵」

「はい、丞相」

「此度の会合の詳細だが……秦王には、年十万石の譲渡で手を打ったと伝えろ。理由は、亡き秦国丞相、孟嘗君への配慮とでもしておけ」

「残りの十万石はいかがなさるのですか?」

「私が受け取り、高値で、中原の民に売りつける。そこまで報告するでないぞ。さぁいけ」

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