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第十三話 昇進

 戦のあと、李雲の働きを評価する将軍任鄙は、彼とその配下を昇進させる。

 戦いののち、雍に帰って、徴兵が行われたときと同じ軍営に、李雲を含む千名ほどの兵士が集まった。李雲らが所属していた軍団は、将軍任鄙配下の一番槍として大いに活躍していた。

「ここにいる勇士は、我らが秦人しんひとのあるべき姿を体現した者どもだ。勇猛果敢なそなたらの戦いに、私は恐れ入った。じきに咸陽宮で行われる論功行賞にて、陛下より宝物ほうもつを賜った場合は、それを銭に変え、そなたらに還元することを約束する」

 将軍任鄙は、この場に集まる千人近くを見渡しながら、一人一人を労った。

 戦場となる平野の中では、顔すら確認できないような末端の兵士らのこの小さな命が、血肉や骨となって、自分を将という巨大な存在たらしめるのだと、彼は思っていた。

「特に功績を立てた一部の兵士は昇級とし、給金をあげ、武具や甲冑等の装備を与える」。彼はそう宣言し、数名を昇給させた。

 公孫起は反乱鎮圧の功で、五十人を指揮する『屯長』となった。

 また、李雲は数千人を指揮する『曲』へと飛び級昇進をしていた。

 特に、臨機応変に立ち回って多く味方を助け、夏育本陣に入り彼の捕縛に大きく貢献したことで、将軍任鄙自らが李雲を労った。

「そなたの勇猛さに恐れ入った」。李雲は感激し涙ぐんでいた。そして膝を落とし、地面に手を突き、三度頭を下げようとした。それは感謝を示す、礼であった。

 それを将軍任鄙は制止した。

「立て、礼など良い。そなたらが居てこその私だ。いわば将として私そのものなのだ。誰が自分自身に礼をするというのだ、李雲よ」

「もったいなきお言葉にございます」

 李雲は立ち上がって拱手をしながら、将軍、と呼んだ。

「実は、将軍にお会いしお声をかけていただいたのは、今回が初めてではありません。五年前に板楯族による侵略があった際、包囲された我々は将軍御自らに助けていただきました。そののち、労いのお言葉をいただきました」

「そうであったか。そうか、そなたをあの窮地を生き抜いた勇士であったか。李雲よ、今宵は我が部屋へ参れ。酒を振舞おう」

「ありがたき幸せ……!」


 それから数日、帰宅した公孫起。家族は彼の帰りを喜び、将軍より褒賞があることを伝えると、彼らはそのまま祝杯をあげた。

 大勢の秦兵を殺したことに、罪悪感はあった。少し気を許すと、それは胸の中で大きくなっていく。

「どうしたのだ起よ」という家族の声に、ふと我に返る。

「酒に酔っただけです」

「酔いつぶれようぞ、我が息子よ」

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