表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/194

第百二二話 司馬錯、和平を反故にする

 司馬錯の進撃に恐れを成した楚王は、領土を割譲し和平を乞う。司馬錯はそれを受け入れるも、すぐさま兵を整え、和平を反故にする。

 えん 項叔


 楚の大将軍項叔は、楚王の詔を受け、都の郢から北上し、五百年の歴史がある旧都の鄢に駐屯した。ここは攻撃を受けている黔中郡と郢のあいだに位置する街であった。

 鄢は川や崖が繋がる複雑な地形の中、丘の上に聳える城である。

「ここに大軍が駐屯するだけで、敵は進めなくなる。黔中郡は捨てることになるが、これで敵は兵糧が切れて撤退するしかなくなるな。しかし黄歇殿はまだ若いというのに、よくあの王に、出兵を納得させたな。あの王はよくいえば慎重、悪くいえば判断力がなく、機を逃しやすい性格だ。さすがは屈原殿の食客だな。……なにはともあれ、軍事は私に一任されている。私は、徳も才もないが、信任された以上は死力を尽くそう!」


 意気込む項叔だったが、秦軍が黔中郡の半分を掌握したことを恐れた楚王は、軍の戦略を無視して、秦将司馬錯と交渉の席に着いた。

 そしてあろうことか、秦将司馬錯の攻撃を停止させる代わりに、上庸県を割譲することとなった。

 報告を受けた項叔は、唖然とした。

「なんだと……! 私が鄢にいれば、黔中郡から先へは進めないはずなのに! どうしてなのだ!」

「将軍、楚王は軍を軽んじているのです。宮中に篭もり、外が見えていないのです!」

「滅多なことをいうな、副将がそんなことをいえば、兵も真似してしまうぞ。私は淖歯のような無能ではない。撤退の詔が出てない以上、我が軍はここに残り、敵を防ぐぞ」



 上庸県 司馬錯


 司馬錯は割譲された上庸郡県で軍を整え直した後、着々と黔中郡の各県を攻撃し、陥していた。

「頭は立場が上の時こそ、下げる価値がある。楚王との和平等、守る価値もない!」

 司馬錯は秦将として、勝ちに拘り、勝機を逃さぬように兵を動かした。

 中でも、国尉白起の指揮下でなん度も激戦を繰り広げてきた猛将の張唐と胡傷の指揮は優れており、司馬錯は、自らが去った後の秦軍に心配の必要がないことを肌で感じた。

「我が軍に居るのは、白起だけではない。その下には優秀な将がおり、その下にも、将として歴史に名を刻むであろう有能な兵が連なっているのだ。その軍は、傑物である国尉の下にひとつにまとまっている。もう憂うことは……なにもないな」

 司馬錯の許を、百将が現れた、前線の状況を報告してきた。

「大将軍、我が軍は着々と城を陥しております。しかし各城の守備軍が連携して、平野に結集しているとこことです。騎都尉きといの楊摎殿が、既に部隊を率いて敵の攻撃を防いでいます。決戦の指揮をお願いします」

「楊摎……こやつは大器だ。将来、大きなことを成し遂げる存在だ。伝令よ、楊摎率いる精鋭騎馬兵一万五千を主力とし、四万五千の全軍を張唐に指揮させろ。私は五千の兵のみを後詰めとし、後方に控える」

「指揮をなされぬのですか……?」

「後に続く者に、全軍を指揮させてみたい。白起という天才を除いても、我が軍は大国の軍を倒せるのだと、天下に知らしめたいのだ」

「御意。直ちに伝えて参ります」


 張唐は軍勢を率いて、黔中郡の平野にて決戦を行った。

 白起に学んだ実践的な兵法は、彼の才を助長し、五千以下の犠牲で黔中郡の楚軍二万を撃破する戦果を出した。

 敗残兵が散り散りに逃げていく様を見届けた司馬錯は、空を見上げ、黄昏ていた。

「国尉白起はいっていた。優れた将とは、味方の損害を少なくし、多くの敵を挫く将であると。張唐はやってのけたぞ。あとはそなたらに任せようか」

上庸県……現在の湖北省十堰市竹山県南西部。

西北に西安市(鎬京)、西南に重慶、東南に荊州市(鄢)がある地域。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 司馬錯、後進の育成も怠らない。 巴蜀は、長江の上流になるので、楚への侵攻には水軍の活用が主軸となるのは当然でしょう。 次回は、楚の首都が陥落しますか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ