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第十一話 思わぬ強敵

 反乱軍との戦闘に入る。そこには蛮族のように馬に跨り駆ける、李雲がいた。 

 一方、羋戎は武王が登用した将軍夏育と戦闘になり、苦戦する。

 定期的に武具の扱いや行軍などの訓練を課されていた男性たちが、徴兵のため雍城に集まっていた。その中に公孫起もいた。

 彼はこの数年、公孫家の当主として商売をしていただけではなく、戟や槍の扱いを自主的に訓練していた。一人でも多く敵を倒したい、という気持ちからだった。だがこの頃は、必ず家族の許へ帰るためにという気持ちも、強くあった。

 だから彼は防具を仕入れ、身につけていた。軍から階級のない歩兵へ支給されるのは、武器である戟のみである。防具は自前で用意するしかないが、高価であるため、今までは着けることができなかった。

「この甲冑を手に入れられたのも、私が公孫の家に迎え入れられたからだ。亮よ、そなたの命と引き換えといってもいい。そなたの命の分まで、必ずこの生を燃やしてみせようぞ」


 荒野で戦が始まった。砂塵が舞い、敵味方の区別も難しい。そんな中で戟を振るい、時に味方を助けながら、敵を倒していった。

「百将につづけ! 敵を同じ秦人しんひとと思うな!」

 栗毛の馬を駆る秦兵が、黒毛の馬を駆る百将を指して叫んだ。そこには『李』の名が記された旗が複数枚翻っていた。

「馬に乗りながら戦うなど、戦も変わったものだな……。まるで蛮族のようだが、速くて威嚇できるのは有益だ。しかし……速すぎて追いつけぬやもしれんではないか!」

 百将の李雲についていかねばならない。その周りにいる仲間とは、同じ命令に従い、手をとりあうことができる。だが一度でも李雲を見失ってしまえば、この混戦の中で、数秒ともたずに殺されてしまうだろう。

「李雲様の旗を見失うな! 前進!」

 公孫起は叫び、自分と同じ部隊の仲間へ目配せをした。



 本陣


 大将軍の魏冄は伝令による報告を受け、よし、といって喜んだ。

「我が方が押しておりますな、右丞相殿」

「そうだな大将軍。前線の任鄙じんひ将軍の采配は見事だな」

「彼の配下の中で、一番槍はどこの兵だ」

「雍の兵士です。部隊の最小単位である、五人を率いる伍長を、五十人を率いる屯長とんちょうへ。百人を率いる百将を、五百人を率いる五百主へ。数名をことごとく昇進させ、この戦の経験を対外戦争の際に活かしましょう」

「うむ、すべて無駄ではあるまい。敵将の首を取った部隊には、今後とも期待だな」

 地図の上の駒を戦況とおりに動かし、彼らは今後の展望を思案していた。負けるとは思っていない。そればかりか、容易にひねり潰せるとさえ、二人は思っていた。

「報告! 左翼、左丞相羋戎さじょうしょうびじゅう軍、苦戦し戦線が膠着こうちゃく!」

 そういうと、伝令は慌ただしく走り去っていった。

「なんと、敵にも骨のあるものがいたのか。我が弟が相対するは……夏育か。奴に苦戦するとは思わなかったが……」

 解せない、と顔に書いてある魏冄を見て、樗里疾はあることを思いだした。

「そういえば、あのことを覚えているか」

「あのこと……とは?」

「五年前、板楯ばんじゅん族による侵略があったな。その背後には義渠県がいると、任鄙は考えているようだ。だとすれば……」

「その侵略は、義渠による秦の国力を削ぐための策略……! この反乱は単なる王位継承権を巡るものではなく、義渠県による離反の危険がある……ということですか!」

「左様。任鄙は、当時副将として側にいた夏育がそう推理したことで、その説を信じるようになったようだ」

「もしそれが真実であるなら、夏育は、身の振り方を誤りましたな。老婆心で後輩を育てた結果、墓穴を掘ることになったと」

羋戎(生:紀元前332年〜没:紀元前262年)は、戦国時代後期の秦の政治家。宣太后(恵文君夫人)、魏冄の弟。楚出身。

魏冄らとともに嬴稷の秦王即位を支援して秦に入り、その後秦王を凌ぐほどの権勢を誇った。

また斉、韓、魏による合従軍が秦の函谷関を攻めた際、それを迎撃した。

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