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第百二話 斉西の戦い 三

 楽毅は全軍を先鋒にし、川を背にして燕軍を布陣し、済水で斉軍と衝突する。

 楽毅は全軍に渡河を命じた。燕軍は渡河した後、桟橋を焼いた。

「我らは決して退かぬ。もう帰る橋はなく、活路はただ一つ、敵を破り前方へいでることのみ!」

 済水の西側、楽毅はその目で斉軍を捉えた。山の上に布陣し高所からその全体を眺めた時、楽毅は敵軍の足取りの重さに気づいた。

「もしや……斉兵の士気は低いのか」

「申し上げます! 敵軍脱走兵を捕らえました!」

「脱走兵だと、まだ戦いは始まってすらおらんぞ……」

「脱走兵曰く、斉は宋攻めに大軍を動員したが、民はその恩恵を受けられず疲弊するも、斉王は激を入れようと、先祖の墓を暴くと逆に兵を脅し、兵の士気を下げたとのことです」

 報告を聞き、副将達は笑った。幕舎中で軽蔑の笑い声が響くも、楽毅だけは眉一つ動かさず冷静であった。

「配下の将兵が犯した斉内での略奪を、これで帳消しにできるか……。全軍に命を下す。此度の決戦は、全ての軍を先鋒として、一撃で決着を決める。迅速に襲い、斉兵の士気を極限まで下げ、自壊させるのだ。逃亡する斉兵には構わず、混乱する中で我々が狙うはただ一つ。敵将田觸の首のみである!」


 両軍は済水の西側にて相対した。

 先に動いたのは、田觸であった。

「敵は川を背にするような、兵法も知らぬ愚か者だ。しかも軍を分けず、川の前に固めているなど、混乱必須の悪手だ。兵よ恐れるな! 左翼騎兵を前へ! 敵を蹴散らせい!」

 田氏の兵は自らの国を守ろうと、意気揚々と突撃した。

 その勇ましさに、楽毅は男らしさを感じた。

「そうだ、兵とはそういうものだ。それでこそ我が軍と相対するに相応しい」

 燕軍のその高い戦意で、突撃してくる斉軍騎兵隊に対して、迎撃の構えを見せた。大声を出し、盾を剣で叩き、戟を天高く掲げて威嚇する。しかしそれに怯む斉兵ではなかった。

 斉の騎馬兵が三百歩の距離まで迫った時、燕の弓兵は矢を放った。天高く孤を描き、地上に降り注ぐ矢を、斉兵は盾で塞いだ。

 二百歩の距離まで近づいた時、前線の燕将は叫んだ。

「大盾兵散開! 騎馬兵、前へ!」

 百歩の距離まで近づいた時、燕将は叫んだ。

「騎馬兵、突撃!」


 両軍の騎馬が衝突し、戦場に血が流れる。男達の叫び声と馬の嘶き、刃が交わる音が絶え間なく響く。前線での白兵戦で燕軍が優勢になった頃合を見計らい、遂に楽毅は動いた。

「旗を掲げ、太鼓を鳴らせ。全軍、配置そのまま、突撃だ!」

 楽毅の命令で、燕兵は吶喊した。全ての騎馬兵が横一列になり、一糸乱れぬ動きで波のように押し寄せる姿に、斉兵は戦意を削がれた。

 慌てた田觸は、震える声で叫んだ。

「迎撃! 迎撃! 迎撃だ! 全ての騎馬を前へ!」

 その動きを確認した楽毅は軍勢の右側に固めていた弓騎兵を大きく迂回させ、斉軍騎馬が抜けた側面を攻撃した。斉軍中央は混乱し、そこを燕軍騎馬が濁流のように飲み込みながら、田觸が居る心臓部目掛けて進んだ。

 田觸は分けた左右の軍で対処することを諦め、早々に逃亡した。

 指揮官がいなくなった斉軍は乱れ、斉兵は我先にと逃亡を開始した。

 楽毅は斉軍の左右の軍がもはや機能していないことを颯爽と見抜き、自らも馬を走らせながら、赤い旗を掲げさせた。これは予め決められていた、中央一点突破を意味する軍令であった。

 楽毅を筆頭に燕軍はまっすぐと田觸を追撃した。田觸の馬は、川の水が流れ込む浅瀬で、沼地に足を取られた。

「敵将田觸はすぐそこだ! 首を取ったものには褒美を与えようぞ!」

「燕の下郎めが……大国の将を舐めよって!」

 田觸は覚悟を決め、腰の剣を抜きとった。しかし騎馬した燕兵の戟に一突きされ、一太刀も浴びせることもできず、討死した。

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