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第十話 季君の乱

 魏冄の予想通り、起こった反乱。魏冄率いる秦王の軍勢は決戦に臨む。

 秦王軍の秦兵、公孫起は、武功を立てるべく戦場を駆ける。

 紀元前305年(昭襄王2年)


 魏冄は宮廷で右丞相の樗里疾ちょりしつ(嬴疾)と会っていた。二人は池を泳ぐ鯉を眺めながら、庭を歩いていた。

「右丞相殿、以前の左丞相である甘茂かんもの件に進展がございましたな」

「ああ聞いておる。ようやく、目の上のタンコブを取り除けた気分だ」

「左丞相だった甘茂かんもは、魏で宰相になりました。七雄の一国である我が秦で左丞相となりながら、それだけでは飽き足らず魏でも高官になるとは──」

 不敵な笑みを浮かべながら顎髭を撫でる魏冄を見て、樗里疾は彼を指さし、笑った。

「そなたの策略であろうに。しかしお陰で、邪魔者は遠ざけられた。甘茂は有能な将であったが、政は不得手だった。しかし強欲で地位を捨てず、我が秦の心を一つにする妨げとなっていた」

「心は、志を同じくせねば、一つにはなりませんな」

「左様、志を同じくできるのは身内のみだ。かつて我が兄である恵文王が外国人である商鞅を用いたせいで、奴はつけあがり、国を憂う私の鼻を削いだ。奴は国を強くしたが、結局は奴も政を専横するようになり、機を見て私が奴を討伐したのだ。そなたは信用しておるぞ魏冄大将軍。そなたの姉上は、我が兄のきさきであり、親戚であるのだからな」

「右丞相殿、甘茂は……商鞅のような強敵でしょうかな」

「いいや……奴は小物だ」



 同年 季君の乱


 秦国で内乱が起こった。それは大将軍の魏冄ぎぜんが予想した通り、秦王の即位を認めぬ公子壮(嬴壮)が起こしたものであった。

 彼を支えるのは老将夏育、齢八十で盲目の老将鳥獲。そして、魏国の宰相となっていた甘茂であった。


 秦王は咸陽にて、反乱の報告を受けた。

「魏冄よ、そなたは申したな。この戦、勝てると」

「無論、勝てます」

「されど大将軍司馬錯は、数年前に我が国の支配地に加えた巴蜀はしょく方面の監視のため、参戦できぬのだぞ」

「秦王様、我が国にいるのは司馬錯将軍だけではありません。義渠国を下し臣下としたこの魏冄や、我が弟の羋戎びじゅう。諸国連合の侵略である合従軍を退けた、右丞相樗里疾殿もおります」

「我が叔父上も参戦するのか。身内が大勢、余に味方してくれおり、頼もしい!」

「身内のみならず、『力は任鄙、智は樗里疾』と謳われる、先王が残した宝、任鄙将軍もおります。彼は今後の秦国を支える名将となりうる逸材にございます」

「誠か……その者は確か、数年前の異民族を討伐した将軍であったな。その者のことも、しかと正史に残そうぞ」

「秦王様は、なるべくして王となったお方。身命を賭して、お支えいたします」

「余は、天に選ばれし特別な王である。そなたらが活躍したならば、しかと褒美を与えようぞ」

 秦王は軍を編成した。



 同年 郿県


 公孫起は戦の噂を聞き、雍城での徴兵に向かう。

義父上ちちうえ義母上ははうえげん殿、行ってまいります」

 その姿は凛々しかった。

 公孫起が発って、うしろ姿が見えなくなったとき、義両親りょうしんは暗い顔をしていた。しかしその二人を、元が気丈に支えた。

「起は必ず帰ってきますよ。笑顔で迎えてあげるために、悲しんでいてはいけません。あの子は、誰にも負けない特別な子なんですから……!」

樗里疾(生年不詳〜没:紀元前300年)……戦国時代の秦の王族、政治家、武将。姓は嬴、氏は居住地から樗里、諱は疾。樗里子とも呼ばれる。

孝公の時代に権勢を振るった商鞅によって刑に処されるも、恵文王の時代に彼を捕え車裂きの刑に処した。また濮上の戦い、垂沙の戦い、函谷関の戦いにて功績を立てた。


甘茂(生没年不詳)……戦国時代の秦の将軍、政治家。

恵文王の時代、漢中平定に貢献した。また武王の時代にも、韓の宜陽を獲り六万人を斬った。

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