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作戦その3とその4とその5

強がっては見たものの、実際に私が復活したのは3日後だった。

 2日間泣いたり悔しがったり、青ざめたりと情緒不安定な私を見ていたせいか、ジョシュアはすっかり心配性になってしまった。


 でも大丈夫。この3日間泣いて過ごしただけではないのだ。

 まず、シナリオの破壊は諦めていない。

 直接介入するのが無理ならば、逆に考えればいい。介入しないようにするのだ。

 ヒロインであるクロエに近づかないために、今いる魔法科から、武術科へと籍をうつす申請をした。

 申請したのは3日前に思いついた時点でしたので、そろそろ返事がくるころである。

 これで今度こそシナリオとは完全におさらばだろう。

 武術科はシナリオには名前すらでてこない。


「お嬢様、実家よりお手紙が来ております」

「あら?何かしら」


 封蝋を開いてみれば、それはお叱りの手紙であった。

 何を考えて武術科へ行こうというのか!しっかり魔術を磨いて王妃になるべく教養をつけてきなさい!と。


「お嬢様いつの間に転科届をお出しになられていたのですか!?」


 放り投げられた手紙を読んだジョシュアがすごい勢いで私を振り返って叫んだ。

 そりゃそうだろう。

 ばれたらこうなるかもな、とはちょっとは思っていた。

 だからこっそりと、ジョシュアにもバレない様にやっていたのに、学校から実家に報せがいったらしい。

 そりゃそうかー…。


「差し出がましいようですが、最近のお嬢様はどこか変わったような気がします。うまく言えないのですが……」

「まあ、変わったのは間違いないわ。でも放っておいて頂戴。あなたに何かできるわけではないのだから」


 そう、ジョシュアは攻略対象でもないし、キーパーソンでもない。

 ただのモブで、ただの従者。立ち絵はあったかもしれないけれど、スキップして飛ばしていたかもしれない。あったとしても、悪役令嬢の従者までは覚えていないわよ。


 転科してシナリオおさらば計画があっという間にダメになったので、作戦その2に移行することにする。

 

 作戦その2は、見えないところからの妨害である。

 直接は関わらずに、あくまで間接的に妨害するのだ。


 と、いうわけでクロエがクッキーを作って攻略対象を1人選び、プレゼントするイベントが起こる日を狙って、クッキーを作るであろう家庭科室を占領した。

 寮にキッチンはついていないし、食堂にも手を回して改装中の札を貼らせておいた。

 これでクッキーは作れない。作れないからイベントは起こらない!


 私は完璧な作戦に満足し、せっかく家庭科室を占領したので、ジョシュアにふわふわのチーズスフレを作らせた。

 キャラメル風味のホイップクリームをたっぷり添えて上からナッツを散らしてもらい、お茶にはすっきりしたフレーバーのミントティーを淹れてもらった。

 完璧な従者は料理も完璧らしい!


 勝利に酔いしれ、ご機嫌なティータイムをしている私がふと家庭科室の窓の外に目をやると、クロエがアイザックにクッキーを渡しているところだった。

 えええええ、なんでなんで?

 クッキー作る場所なんてなかったはずなのに!

 もしや手作りとか言ってたけど本当は手作りなんてしてなくて既製品だったのでは?

 思わず窓に張り付いてイベントを凝視する私にジョシュアがぽつりともらした。


「そういえば前日にはここでクロエ様がクッキーを焼いていらしたようですね」


 出来立てじゃなかっただけだった!


 急に落ち込みはじめた私にジョシュアがおかわりのケーキをだしてくれる。

 落ち込んでいた気持ちがどこかいったからスイーツはすごい。決して私が単純な訳ではないわ。




 さて、クッキーはうまくいかなかったが、次は花の中で眠るクロエを見つけるというグレアムのイベントを間接的に壊すことにする。

 学園には菜園以外にも庭園があって、その垣根の秘密スポットみたいな場所で休憩できる場所があるのだ。

 これは大変スチル映えがしたので覚えている。

 実物の花はもっときれいで、私が寝そべって占領していても、大変に絵になった。


「あの、お嬢様」

「………。」


 寝たふりをする私の隣で、ジョシュアが日傘をさして座っている。

 当然日傘は私のためのものだ。


「お嬢様、この場所が大変お気に召したようですが、1週間続けてお出でになったために日焼けと虫刺されが……」


 確かにヒリヒリするわ。

 日傘だけではなんともならないものね。

 それに首筋や足があちこち痒い。


「ですのでこれ以上は、こちらに通うことは止めさせていただきます」

「やだ!」

「だめです。ご実家に報告しますよ」

「やだぁああ~~~」


 この頃には、心配性だったジョシュアも段々と奇怪な行動ばかりする私に慣れ始め、とめたり意見したりするようになった。

 勝手に武術科に転科しようとした件のせいで、実家からきちんと監視するようよく言い含められているようだ。

 最近では母親のように口うるさい。

 口では勝てないので、心の中でオカン執事とでも呼んでやるわ。



 私がいなくなったので、たぶん花の中で眠るイベントは無事行われたんだろうな。くすん。





 さて、とくにシナリオの変化が見受けられないまま学園はテストの季節を迎えた。


 直接的には関わらないと決めたため、図書館での勉強イベントに混ぜてもらうことはできない。

 テスト前に図書館を権力に物言わせて封鎖すると多数の生徒に被害がいってしまうのでそれもできない。

 そのかわり、私には1回目のベアトリクスという記憶がある!テストの問題を覚えている!

 授業の内容もしっかり頭に入っている!

 1回目の私えらい。

 王太子の婚約者だからと頑張っていた甲斐があった。

 念には念を入れて、私は必死に猛勉強した。

 これにはオカン執事も完全に協力してくれ、毎晩遅くまで教えてくれたり、食事を差し入れしてくれたりと優しかった。

 こうして1位をとって、ディランに褒められるというイベントを横取り(ぶっつぶす)のだ。


 答えは何度も見直ししたし、自信をもって廊下に張り出された成績上位者の掲示を見に行った私は膝から崩れ落ちた。


 私の名前、どこにもない!


「1位か、頑張ったな、クロエ」

「ありがとうございます、ディラン様が教えてくださったからです!」

「謙遜することはない。同じ内容を教えていても、エルドレッドよりも良い成績を残したのだ。誇ると良い」

「兄上!俺は座学は苦手なんです!」


 和気あいあいとする攻略対象者たちと、ヒロインを背にとぼとぼと引き返す私に、グレアムが声をかけてきた。


「ベアトリクス様。ちょっとご確認いただきたいのですが、こちらは貴女の回答用紙で間違いございませんか?」

「え?えぇ……。」

「やはり。字が似ていると思いましたが、名前がなかったので確信が持てず。惜しかったですね、名前さえ書いていれば満点だったのですが」

「ええええ…名前の書き忘れぇ~~?」


 その場で地団駄を踏みたいくらい悔しかった。

 でも淑女なのでできない。

 心の中が落ち込んだり怒ったりと忙しないわ!


「ベアトリクス」

「えっ…はい」


 顔には出さずに、でも心の中は大荒れの私にディランが声をかけてくる。


「がんばったな」


 そう言って、さわりと頭を撫で、去っていく。

 たった一言。

 それだけなのに、嬉しい。

 なんだかまるで、私の思いを全部わかっているみたい。


 潤んだ瞳をごまかすように閉じて、私はそっと息を吐いた。

 さっきまでのくやしさとか、悲しみはどこかへいった。


 打倒シナリオ第5計画はまたしてもダメだったけれど、でも、負けない。

 第5計画は計画の中でも最も最弱、わたしにはまだ第6第7の計画が……


 えーん、次はどうしよう~!


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