大団円なんて知りません!
「ちょっと待ったあ!」
扉がばん、と開いて、フリードリヒとクロエが入ってきた。
フリードリヒはディランに食って掛かった。
「イベント通りにすればベアトリクスが助かるって聞いたから協力したんだぞ!!」
「その通りだ。何も間違ってないだろう」
「俺はベアトリクスの事が好きだからやったの!ディランと結婚させるためじゃない!ベアトリクスはこのまま療養中ってことにしてトーワで暮らそう。そしてあわよくば俺と結婚しよう!」
「フリードリヒはたった今クロエと婚約したろう」
「終わった後にドッキリ大成功~~!って叫んできたよ!本気にした父上と母上の顔がめちゃくちゃに怖かったしロードリックは泣いてた」
「それはご愁傷様」
言い合いを続ける2人をよそに、クロエがすすっと私に近づいてきた。
「ベアトリクス様、無事でよかった。ずっと心配していたんですよ。お身体は大丈夫ですか??」
「クロエ……もしかして、貴女もシナリオを知っていたの?」
「はい。聖女の力が発現するや否や探し出されて、膨大なセリフを覚えさせられました」
「知らなかった……」
「ベアトリクス様に知られると、いつも勝手に行動してシナリオがうまく行かなかったんだそうです」
クロエが私の手をとって、白い光がふわっと身体を駆け巡った。
回復魔法をかけてくれたらしい。
「念のため。あまり傷つかない様に、一瞬で倒せるようにと猛特訓をする日々は辛かったですが、おかげで聖力は格段に増したんですよ」
「あっ、そういう事だったの……」
ヒューバートの手紙にあった聖女の力を伸ばすってこのためだったのね。
わたしはふと気になってクロエに尋ねた。
「それで貴女は、結局どなたかと幸せになれるの?」
「え?」
「ヒロインなんでしょう、ディラン様やフリードリヒ様を本気で好きになったりはしていないの?」
「とんでもないことです。ディラン様はいつも怒っててすっごく怖いし、他の攻略対象の方はイベントを通してお芝居をしていたようなもので、正直そんな気持ちになれませんよ。あ、でも……」
クロエはそっと手を口にあててころころと笑った。
「グレアム先生だけは、いつもイベント外でも優しくて、お誘いをよく下さるんです。もし私がヒロインなら多分、先生を選んでますね」
「あぁ……そういえば最初からあの先生はどことなく貴女贔屓だった気がするわ」
菜園のイベントを思い出す。
態度があからさまに違ったし、このままグレアムとクロエは結ばれそうな気がするわ。
「ベアトリクス、フリードリヒと一緒にデートをしたって本当か!?」
「ベティ!ディランとキスしたっていうのは本当なの!?」
あぁ……しばらく放置していたら、なんだかすごく面倒なことになってそう。
「じゃあもうベティに聞こう。君はどっちを選ぶの?」
「小さいころからずっと婚約者だったんだ、今更変更はないだろう。ねぇベアトリクス?」
「ジョシュア」
「はい」
それまでずっと後ろに控えていた、従者ごっこをしている男に声をかけた。
「私、あなたを選ぶわ。お願いだからキスしてくれる?」
白い影はさっと私を抱きかかえると、にっこり笑った。
「喜んで」
唇が触れあって、それを見たディランとフリードリヒが喚く中、ジョシュアはそのまま転移魔法を発動させた。
「しまった……!」
帰ってきた家で、そのままもう一度ジョシュアに口づけられる。
少し開いた唇の隙間から入り込み、舌同士が絡められたり、吸われたり。
しばらくそうして堪能され、開放されたころには私は真っ赤になって意識を失う寸前だった。
「考えたんだけど、今から教会に行かない?」
「教会?」
「そう。結婚しようよ、ベティ。」
悪戯を考え付いたような顔。
私たちは手を取り合って教会へ向かい、サインをした。
式を挙げなくとも、夫婦になるのはこの紙一枚を立会人の前で書いて、役所に届ければおしまいなのだ。
役所に届け終わって、さて、どこへ行こう。
「今頃ディラン様たちが店に探しに来てるかも」
「来てたってもう遅いよ。結婚しちゃったもん」
「そうよね。後の面倒なことはしーらない!」
私たちは顔を見合わせて笑って、またキスをした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
もう1話だけ、ジョシュア視点でのエピローグがありますので是非そこまで読んでいただきたいです。